先生vs生徒

「どうしてこんなに数学が苦手なのかしらね?」
「数学なんて買い物のおつり計算が出来れば十分って母が言ってた」
「…………どんなに数学が出来なくても、お前は悪くないよ……」





先生vs生徒





 、マァム、ポップの三人は、テスト前で閑散としてる校内に放課後になってもまだ居残っていた。
 お金もなく家の都合もつかず、来週の期末テストの試験勉強をするには誰もいなくなった教室でやるしかないのは、高校生の彼らには至極当然の事だった。
 1週間後の一日目の試験科目はリスニング、保健体育、数学。
 数学以外はとりあえず前日にでもやれば大丈夫だろうと思われる為、数学にだけ焦点を当てて勉強する事になった。特には数学が大の苦手のため、半狂乱で数学の勉強に取り組んでいた。マァムとポップは数学はそれほど苦手でもなかったので、こうしての試験勉強に加担させられていた。友達が困ってるから試験勉強を手伝う、それ以外にも理由があるからなのだが。

「ねー? これはこの方程式使えばいいの?」
「ちげーよ。こっちだよ」
「何で?どうしてこっちなの? 何でー!?」
「うるせー! もうお前ぇは深く考えずにただ憶えてればいいんだよっ!」
 マァムはいっこうに進まない勉強風景に軽くため息をつきつつ、机に肘をつく。
「そんなに苦手なら、数学のザボエラ先生本人に聞けばいいのに」
「前回のテストの時に聞いたらしいけど、「お前の血液の中にはマヌケのエキスでも入っとるんじゃないかのぉ? キーヒッヒッヒッヒィ!」って言われたんだとよ」
「あの妖怪ジジイ殺しても何の得にもならないってわかってるけど、殺意を抑えられないわ」
 の握るシャーペンがミシリと音を立てる。
「そりゃ……学校内で殺人事件はマズイわよねぇ……」
「だからこうして自力で頑張ってんじゃん!」
「こんだけ人がいるんだから、もはや自力じゃねーよ!」

ガララッ

「やぁ 、こんなところにいたんだね! もう……探したよ! 今日こそ色良い返事をくれるまでボクは諦めないよ! 全校の愚民ども……ゲフンゲフン! いや、生徒達に鉄の規律をあまねく示さんがために立ち上がろう! さぁボクと一緒に、今度の生徒会選挙に立候補しよう!! ………………ん? 何してるんだ?」
 オーバーなアクションで現れたノヴァに冷めた目を投げつけるマァムとポップ。日常となった彼の登場に、もはや顔色一つ変えずに無視して依然と教科書を睨み付ける
「愚民って……」
「何してるんだって台詞はまず最初に来るはずだろう……」
 二人の呟きも聞こえずノヴァは机を覗き込む。
「試験勉強かい? ああ、試験期間に入ったものな」
「ノヴァ、数学得意?」
 上目遣いで見上げてくる に、頬を紅潮させながらノヴァは満面の笑みで答える。親指はグッ! と天を向いている。
「ああ、得意さ! 前回は95点だったしね!」
「じゃあノヴァも教えて〜! 追試は絶対カンベンなのよ〜!」
 泣きついてくるを見て満足気なノヴァ。
「こいつに教えんの、骨折れんぞ〜」
 普段からは想像も出来ないほど、こと数学に関しては要領を得ないに、ポップは半ばさじを投げかけていた。
「別に教えるのはいいんだけどさ、なんか、殺気立ってない?」
 は眉間にしわを寄せて、教科書から目を離さない。
「テストで赤点取ったら夏休みに補習があるでしょ。その予定日に私達、キャンプに行く予定なのよ。補習なんか受けるわけにはいかないの!」
 あ〜! 言っちまった、このバカ! という顔のポップ。
「……やぁ、偶然! 僕もその日に行こうと思ってたんだ! 一緒に行こうか!?」
「別にいいよ」
 はしれっと快諾するが、ポップはノヴァの魂胆は分かりすぎるほど分かっているので黙ってはいられない。
「てめっ! 今決めただろ!」
「証拠はあるのかい?」
ハハン、という鼻を抜ける声と共に口角を上げる。
「火サスの犯人みたいな台詞言いやがって!第一、ウロチョロとの周りをうろつくの止めろよな!テメェなんか駅前留学してろっての!」
「ハッ! それこそそんな台詞、もう聞き飽きたね!そんなツッコミしか出来ないから君はいつまでたっても一般人代表なんだよ!」
「んだとこの、バカでボンボン、略してバカボンのパンク野郎ー!」
「やるかい!? この万年ミドリガメのヘタレ野郎ー!」

 メキッ……!

「アンタ達、いい加減にしないと転がすわよ……?」

 転がされる。

 どうやって、どんな風に。

 きっと本人すら分からないぐらい切羽詰ったの口から紡がれた想像もつかない脅し文句と、砕かれたその手の中のシャーペン、そして本気で射殺されそうな の眼力に、ポップとノヴァの二人はすくみ上り、ゴメンなさい、という言葉すら出なかった。しばらく震えは治まらない。
「ほら、シャーペン、新しいの。さっさと進めちゃお?」
「うう、ありがと、マァム。あなただけが頼りだよ、あたしゃ」
 は泣く泣く新しいブルーのシャーペンを受け取り、教科書に向かった。

 ガラガラッ

 突然の教室の扉の開く音に、そこにいた全員の目が入り口に向けられた。

「おや! お前たちまだ帰ってなかったのか!?」
「ザボエラ先生……」
 ザボエラはペタペタと短い足から出るいつもの不思議な音と共に教室に入ってくる。
「ブツブツ……全く……教頭の指示じゃから仕方なくワシがこんな見回りなんかしてやってるというのに……お前たち! わしの仕事を増やしてないで、テスト期間中は部活も休みなんじゃから、いつまでも校内に残って遊んでないでさっさと帰って勉強せんか!!」

 プツリ

「…………え……のよ……」
「は? 何か言ったか??」
 ザボエラは耳に手を当て、俯くに近づく。
「ヤベェ……」
 それと同時に他の皆は一歩二歩と後ずさる。


「じゃあ私は今、何してるように見えるのよーー!!?」


 がっしゃーーん!

「ヒイィッ!?」
 ザボエラに向けられたその目は我を見失った憤怒の色に染められていた。
「人の一生懸命を笑いやがって…………!!」
「わ、笑っとらん! 笑っとらんよ……!!」
 にじり寄るにザボエラは腰を抜かして逃げ出すことも出来ない。
ッ!? お、抑えろ! 一応こんなでも先生だぞ!?」
!!」
 はポップたちの制止も聞こえず、ザボエラに掴みかかる。

「くらえっ!フィンガーフレアボムズ〜!!」

「ギ、ギエェェェェ〜!!」
「ちょ……!それ、アイアンクロー!」



「ア〜ンド、ギガブレイク〜!!」

「ゴゲギゲガグゲゲゲゲ……!!」
「最早それ形も合ってない! チョークスリーパーだから! 落ちちゃうから!」

  みるみる顔を赤から青へ変化させていくザボエラに、助けてやる事など彼らには出来なった。舌をダラリと垂らしたかと思うと、あっという間にその首は力なく崩れた。
 サチ は泡吹くザボエラをゴミ箱に捨てるちり紙のように床へ放り投げた。どこぞの不死身を専売特許にしてる奥手銀髪さながらに。
「ダニが……!」
「あ〜あ……やっちゃった……」
 のびたザボエラを見下ろし呟く三人を余所に、サチは拳を高々と上げ、勝利の勝ち鬨を上げていた。



 病院に担ぎ込まれたたザボエラは軽い記憶喪失と診断され、2週間の入院を余儀なくされた。
「ええ、突然倒られたんです……私達……ビックリして……うう……」
 サチらの涙ながらの訴えにさしたる事件にもならなかった事は、ポップたちの胸を撫で下ろした。酸素不足による記憶の欠落。それは墓まで持っていく秘密となった。しかももう一つ幸運なことに、入院中のザボエラに代わり、数学の期末試験の問題は教頭のハドラーが作成した為、難易度は下がり、見事サチは赤点から逃れる事が出来た。

「よっしゃーー!!」

 またも勝ち鬨を上げるの横で、気まずい気持ちのまま夏休みに突入していった三人だった。
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(2006.6.26)
ヨさんへお贈りする第二段。