買い食い

 日中は木枯らし一番が吹いたと、夕飯時に見たニュースで小綺麗なピンクのスーツを着たアナウンサーが言っていた。
 そして、夜は冷え込むでしょう、と滑舌良く続けた。

 明日は休みの為、今日は夜更かしをすると決め込んで夜食としてコンビニにお菓子やジュースを買いに出たオレは、ニュースは見ておくもんだ、とマフラーに顔を埋めながら思った。マフラーに触れていない頬がピリピリと痛むほどの冷え込みは、今コンビニで買ったホットの飲み物を飲みながら帰ろうかと思うぐらいだった。
  二本も買っちまったし、いいかなぁ。
 でもゲームやりながら飲むコレは格別だから減らしたくないし。

 そんな事を考えながら近所の公園の前を通りかかった時だった。
 良く見知った顔が公園のブランコに座っているのが見える。俯き加減だったので顔を窺うのは難しかったが、オレには分かった。

 だ。

 いつもと違う様子は、こんな時間に大して着込みもせずに一人で公園のブランコに腰掛けて、小さく肩を上下させているのを見れば一目瞭然だった。
 オレは誘われるように静かに近付き、隣のブランコにに座った。

 突然の訪問者に驚いたようだったが、正体がオレだと分かったからか強張らせた身体を少し弛緩させたみたいだった。
「……何してるの」
 あまり好ましくない来客に、声に刺々しさを含ませている。オレは依然、顔を合わせない。
「買い出し」
 ガサリとビニール袋を掲げてみせる。
「遅いんだから、帰りなよ」
 帰れってか。
 だがこんな時間に女一人でいるのや、そんな涙声を聞かされたのでは、はいそうですか、と帰れる訳がない。
 ビニール袋をガサガサと静かな公園に響き渡らせながら中身を漁ると、目当てのものを手に取り、に向かって放り投げた。
「ホラヨ」
「わっ、何?」
 は驚きながらも、急によこされたものを上手くキャッチし、訝しみながら手の中のものを見つめた。
「……カフェオレ?」
 それは先ほどコンビニで購入した小さなペットボトル入りの温かいカフェオレだった。
「まだいるつもりなんだろ。冷えるからそれでも飲んでろよ」
「でも……ポップのでしょ」
「二本あるから」
 そう言ってもう一本のペットボトルを出して見せる。
 観念した様に押し黙ったは、ありがとう、と小さく呟いた。

 はそれを飲むでもなく、両手で挟んで暖を取っているようだった。
 その温かさで少し落ち着いたのか、ぽつりと話しはじめる。
「……私、本気だったんだ……」
「……ああ、知ってる」
「そっか……」
「おぅ」

 知ってるさ。

 アバン先生に気に入ってもらう為に、頑張って世界史のテストでクラスの一番を取ったのも
 放課後、喜々として分からない所を聞きに行ってたのも
 その時先生が使ったシャーペンを大事に持ってるのも

 今日、意を決した顔付きで資料室に入っていったのも

 全部知ってるんだ

 小さく啜り泣く声の隣で、オレはもう一本のペットボトルの封を開け、口に付けた。

 冷えきってしまった体に染み渡るカフェオレは、今の俺にはひどく不釣り合いな甘さだった。
 それを飲んだからといって甘ったるい言葉の一つでも出てくる訳もなく、口をついて出るのは少し温められた、白い息だけだった。

 飲み終わる頃には出てくるだろうか。
 オレはボンヤリと叶いそうもない期待を胸に、もう一口含んだ。
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(2006.11.19)