パプニカサスペンス劇場〜あなたに贈る死の香り〜

 甘い香りに包まれたパプニカ城の台所。
 執務時間中のため人通りはほとんどない。いるのは鼻歌交じりにエプロンをかけ、台所に現れたレオナだけ。
「さてさて〜」
 
 だが、かまどの所に誰かが倒れているのが見えた。
「だ、誰……?」
 レオナは恐る恐る近づく。
 近づかなくてもわかるこの姿は……


 チウが倒れてる。
 吐血し、目は白目を向いて。


「ヒイィッッ!!」






パプニカサスペンス劇場
〜あなたに贈る死の香り〜






「チウ……」
「なんてむごい殺し方を……」
「さぞ無念でしょうに……」
 台所にポップ、マァム、ヒュンケル、がレオナに集められた。
「みんなに集まってもらったのは他でもないわ」
 そう言って取り出したのはパイプと鹿打ち帽。
 そしてぐるりと指を指す。

「ここにいる全員が容疑者だからよ!」

「「なんでー」」
 在らぬ疑いをかけられ、げんなりする4人。
「チウごとき殺るなんて、ここにいる者なら容易い事だからよ!」
「そりゃそうだけど、私たちを疑うなんてひどいわ……!」
「マァムもひでぇな」
「一番怪しいのはヒュンケルね!」
 レオナはパイプをかじりながらヒュンケルを睨みつける。
「なっ……! 俺じゃない!」
「そ、そうよ! レオナったらどうしてヒュンケルだって思うのよ!?」
 マァムはすかさずフォローを入れる。
「ヒュンケルはパプニカを滅ぼしたからよ!!」
「ガーン!」
「姫さん、許したんじゃなかったのか……」
 憐れむ目でヒュンケルを見つめるポップ。
「ヒュンケル〜そんなすみっこで体育座りしてないでよ〜」
 はヒュンケルをゆさゆさと揺さぶる。だがそれに見向きもせず、ひざに顔をうずめる、ヒュンケル21歳。
「俺は……俺は……ぐすん、父さん……」
「どうしてくれんのよ、レオナ。やっと最近2センテンス以上喋るようになったのに、また元に戻っちゃうよ〜?」
「チッ! あんなもろい精神じゃコロシなんて出来ないわね」
 吐き捨てる。
「まぁいいわ。容疑者はまだいるんだから。次はマァム! 貴女が怪しいわ!」
「わ、私!?」
 突然の名指しにビックリする。
「普段からチウのセクハラに悩んでいたじゃない。その仕返しに殺したとしても不思議じゃないわ!」
「仕返しの方がヒドくね?」
「そう思われても当然ね……」
「当然なのかよッ!」
「でも私じゃない! だってチウを見て! 血を吐いてるだけでしょ!? 私ならこんな外傷なく殺れないもの!」
 マァムは胸に手を当て、必死に身の潔白を訴える。
「そうだな……マァムならたんこぶじゃ済まねぇな……きっと……って、どんだけ外傷与える気だよ!!」

 そんなドタバタを嗅ぎつけ、アバンが台所にヒョコリと顔を出す。
? みんな? 何してるんですか?」
「あ、先生」
「先生も怪しいわ!」
 ビシッ!
「は?」
「レオナったらチウを殺したの、先生だって言ってるのよ」
 はアバンに耳打ちする。
「な、何ですって!? チウが殺されたんですか!? ……って……チウってどなたです?」
 満面の笑みで尋ねる。
「あー接点なかったから、それは仕方ないよね」
 アバンだったら何でも許す
「で? なぜ私がその空手ねずみを殺した事になるんですか?」
「知ってんじゃん」
 レオナは嘲笑うかのように口を歪ませる。
「アバン先生は15年も女を放っておいて挙句の果てに若い女に乗り移るような卑劣漢だからよ!」
「グハッ!」
 レオナの会心の一撃! 355のダメージをあたえた!
……私はもうダメです……。あ、愛して……る……ガクっ!」
「せんせー! また私を置いていくのー!? いやー!!」
「悲しい……また犠牲が増えてしまった……」
 レオナは涙がこぼれないよう上を向く。
「姫さんのせいだろ」
「レオナ! 私、犯人を許せない! アバン先生の仇を取るわ!」
「チウのは……?」
「よく言ったわ、!」
 ガシッ!っと力強く手を握る とレオナ。
 そしてレオナはの肩を組み、あさっての方向へ指差す。
「先生がいるあの星に向かって誓うのよ、! 必ずホシを挙げるってね! ……ッぷぷ!」
「面白くない、それ」
「先生、見ててね。私、犯人を地獄で後悔も出来ないぐらい粉々の塵々にしてやるから」
「コワッ」


 ふと、ポップはレオナの衣装のマントの影にチラチラと光るものが見えた。
 悪いとは思いつつ、本人は先生がいるはずもない星に向かって誓いを立てさせてる最中なので、そろそろとめくってみる。

「あ! おどる宝石!」

「ぴ、ぴぴーッ?」
「ん? このバッジは……オマエ、チウの部下か?」
「ぴーッ!」
「あー! オマエ、みんなにメダパニかけただろ!?」
「ぴ、ぴぴぴ」
「つい面白くてって……。この惨状を見ろ! どうしてくれるんだ!」
「ぴぴ〜」
「すぐ解けるにしてもなぁ、それまでこの状態かよ……参っちゃうよなぁ〜。ああ! そうだ! 可哀想にな、オマエの隊長さんは死んじまったんだよ」
 くっ! と出てもいない涙を拭うポップ。
「ぴぴっぴっ! ぴぴーッ!」
「は? 死んでない?」

 それを聞いたマァムはチウをペチペチと叩く。(本人はペチペチのつもり)
 バチッバチッバチッ!

「……った、あたっ、あたたっ! 痛いッ! ま、マァムさん……痛いッ!」

「「ギャーー!! チウが生き返った!!」」

 化け物を見る目で驚愕する一同。
 チウは腫れる頬をさすりながら身体を起こす。
「な、何を言っているんだ、みんなして」
「レオナ、チウ死んだんじゃなかったの?」
「マァムさん、その残念そうな顔、何ー!?」
 泣きつくチウ。
「あ、あれー?だって口から血が出てたし……」
「ああ、これ、ジャム」
「「ジャムー!?」」
「正しくは「らしき」もの」
「は?」


「新しい遊撃隊員の訓練を終わらせて台所の前を通ったら、あま〜いジャムの匂いがしてきたんだ。誘われるように台所に入ってみると誰もいなくて……。なべにはたくさんあったしいいかな〜と思って、つい中身を味見しちゃったんです」
「それで何で倒れてるのよ」
「い、いや、それがそのジャム……激マズだったんです」
「マズイ!?」
 レオナが大きな声を出す。
 は依然、火にかけられていたなべのふたを開ける。

「な、なんじゃこりゃー!!」

 ソコには地獄絵図のような色と光景、そして匂いが広がり、そこにいた全員の顔が歪む。
 は慌ててふたを閉める。それでも洩れた匂いに目がしみる。
「ボクがつまんだ時はそのジャムらしきもの、色と匂いは普通だったんです。だからちょっと舐めてみたら……殺人、いや殺鼠的な味に意識が飛んで……それで気を失ったという事だと思います」
「このジャム(らしきもの)作ったのって……誰?」
 おずおずと腕を上げるのは……。

「あはっ! あたし!」

「レ〜オ〜ナ〜??」

「レオナー呼んだー? プレゼントって何〜?」
「あーん! ダイく〜ん!」
 すかさず飛びつく。
「ヒドイのよ〜みんなして! せっかくダイ君のためにジャム作ったのに、それがマズイだの目にしみるだの犯人のくせにみんなに疑いかけただの……!」
「わかってんじゃん」
「え? ジャム作ってくれたの? レオナが? 前にが作ったの美味しいって言ったの覚えててくれたんだ!」
「言ってくれたら教えたのに……」
「うんうん、がんばって作ったの! 食べてみてね!」
 そう言ってなべのふたを開けると、再び悪夢がよみがえる。顔を覗き込ませたダイはモロに吸い込んでしまった。
「がぺぺッ!!」
 だがダイは耐えた。竜の騎士の血がそうさせたッ!
「(こ、こんな殺意に満ちた暴力的なジャムは初めてだ……!)」
「ダイー、やめとけー。バーン戦で永らえた命をこんなトコで捨てる事ねーぞ」
「おだまりッ!」
「コワッ!」
 最早、全員かまどから離れて匂いから出来るだけ逃げ、勇者の行く末を見守った。

 悪魔の臓物の色かと思われるその物体はスプーンにすくわれ差し出される。
 ギロチンに首をかけてる気持ちだ。
「ダイ君、はい、アーン」
 刃を落とす綱を手に持つのはレオナ。

 自分のために慣れない料理をがんばってしてくれたレオナ。
 美味しいと言ったものを覚えててくれて、それを作ろうとしてくれた愛しい恋人。
 そのレオナが喜んでくれるなら……喜んでこの命を差し出すッ!!

「あ〜ん」

 皆、惨劇を目の当たりに出来ない為、目を伏せる。
 溢れる涙を禁じ得ない。
 今ならダイのアバンのしるしは煌々と緑色に光るだろう。
「さらば、ダイ。あなたに勇者の称号を与えましょう」


 ぱく



「………………お」

「お?」

「おいしい!!」

「「え〜〜〜〜〜!!」」
「そこ! 驚かない!」
「見た目と色と匂いはアレだけど、味はねっとりと舌に絡みつくような甘みの中にスパイスがきいていて、まったりとしていて、それでいてしつこくない。甘からず……辛からず……美味からず……」
「美味からずって言っちゃったよ」
「見た目と色と匂いがアレならもう食べ物として許されないよね」
「でも食べてますよ」
「ほら、ダイはモンスターのブラスさんに育てられたから味覚がモンスター級なのよ」
「ああ、それに竜の騎士の血ィ引いてるから」
「うんうん竜の騎士だから」
「そうだ、竜の騎士だからだ」
「むしろバランだね」
「バランのせいだ」
「そうそう」

 軽く人間不信に陥りそうな会話も聞こえず、美味しそうにジャム(らしきもの)を口に運ぶ。
「やっぱりダイ君はステキ! 私の横に並ぶに相応しい帝王たる男なのよ!」
「アレ食べられるなら帝王でも神にでもなれるよな」
「帝王にも神にもならなくていいから私は食べませんね」
「それじゃあ、お邪魔みたいだから、お暇しましょうか」
「惚気られただけだったわね〜」
「迷惑なカップルだよな〜」
「帰ろ帰ろ」
 皆はぞろぞろと台所を出て、それぞれの部屋に戻っていった。

 台所に残ったのは、ジャムの香りと幸せに包まれていた甘いカップルだった。



「ぐす」
 ヒュンケル21歳も。
/ Top /

(2006.3.13)
色々とゴメンなさいorz