本当に手に入れたい物は中々手に入れられないと相場は決まっている。
どんなに望んでも、どんなに飢えても。
それが大切であればあるほど手が出せず。
・・・だから人は、奇跡を願い続ける。
ザァザァと雨が降り始めた。
まったく、ついてないぜ。
ポップは用事が終わった武器屋の中に戻るかどうかを軒下で悩む。
あ〜、ルーラで帰ろうかな。
ぼんやり空を見上げていたポップの耳に、僅かに聞こえた音。
・・・あ?
激しい雨音に混ざって聞こえる・・・鳴き声?
か細い声に引かれるように視線を向ける。
辺りを見渡すも、人影なんて全くない。
「ん?」
声がした方を見ても、何もいない。
気のせいか?と思いつつも何故か気になった。
多分子猫の泣き声だった。
捨て猫かもしれない。
雨に濡れないように軒下を移動し、店の裏手を覗き込んでみた。
・・・と。
大きな木の向こう側に誰かが座っているのが見えた。
こんな雨の中、何をやってるんだ?
ふと疑問に思い、仕方ないかと一息ついて走り出した。
怪我をして動けないのなら良くないだろう。
一瞬、猫の鳴き声なんてすっかり忘れていた。
「・・・何してんだよ、お前」
走って辿りついた先には。
何かを抱えて蹲ってる女性。
自分がよく知る人物。
だった。
彼女は当たり前だが全身ずぶ濡れで僅かに唇を震わせている。
「・・・へ?」
ゆっくりコチラへ顔を上げたは直ぐにポップだと分かってニコッと笑った。
「あれ?ポップ?何やってんの?」
震える声で、それでも暢気そうに問われ、一気に脱力してしまう。
「そりゃぁ、俺のセリフだ。お前が何やってんだよ」
呆れた声を隠すつもりもない。
だって、呆れてるんだから。
「ん?ほら」
腕の中の何かを示すもそれが何だかよく分からない。
大判の布はハンカチか何かだろう。
それに何かを包んでいるようだが。
「みゃぁぁ」
それから鳴き声が聞こえ、すぐに悟った。
さっきの鳴き声の元はここから聞こえたんだと。
「はぁ、風邪ひくぜ?猫にもよくない」
さっさと帰るぞ。
促してが立ち上がるのを待っても彼女は動こうとしない。
「何やってんだよ、風邪ひくって言ってんだろ!?」
一行に動かないにイラだって声を荒げると、は情けなさそうに
ヘニャッと笑った。
ドキンッ。
心臓が跳ねた。
こんな笑顔・・・初めて見た。
跳ねた胸元を押さえつつそれを無視し、の前に屈みこんでみる。
「・・・どうした?」
思った以上に優しげな声が出て、自分でも驚く。
「いやぁ・・・お恥ずかしい話なのですが」
情けなさそうな笑みを浮かべたまま、は腕の中の猫の位置を上手く
安定させながら左手を抜き、ある物を指差した。
------左足。
「Σなっ!何か変な方向に曲がってるんだけど!」
ビックリして僅かに上半身を仰け反らせたポップを笑う。
「だから立てないのさ」
「はあ。何やってんだよ、女剣士とあろう者が」
「・・・あはは・・・」
ヨイショ、と腕の中の猫を抱えなおして覗き込むと、元々真っ白であっただろう
子ネコの顔が出て来た。
「みゃぁん」
に擦り寄るような仕草で甘えるネコが正直羨ましいと思う。
「この子がね〜、この木の上で降りられなくなっててね」
ポツリとネコを撫でながら言うの声音が気持ちよくて、黙って耳を澄ます。
辺りはザァザァと降り続ける雨の音のみ。
「震えてて可哀想だったから数年ぶりの木登りをしていたわけ」
「・・・もうなんか、予測ついた」
ポップの言葉にがフフフッと楽しそうに笑った。
「自信あったんだけどね〜。イキナリの雨で足滑っちゃって」
「何ていうか、予想通りだな」
ポップの言葉にあはは〜と空笑いをして空を見上げた。
「通り雨っぽいけど・・・止まないね」
ふぅ、とため息をついたの足に自分もため息をつきながら手を翳す。
《ベホイミ》
この程度の骨折ならすぐ治る。
さっきは予想以上の衝撃だったため驚いてしまったが。
みるみる内に治る足をジッと見てる視線が何だか気恥ずかしい。
そういえば、コイツに治癒を施すのは初めてだったことに思い至る。
「・・・お前、回復呪文、受けたことないのか?」
あんまりにも珍しそうに見てくる視線と沈黙に耐え切れず問えば「うぅん」との返事。
ならその視線は何だ。
訝しげに見やればその視線に気づいたらしく、自分がジッと見てたことにも思い至ったらしい。
「あ、いや、ごめんね?」
慌てて目を逸らすの頬が僅かに赤く染まっていて・・・可愛かった。
・・・可愛い?
は?あれ?
いつものは凛としていて、だてに女剣士という肩書きを背負っていない、それこそ
前を真っ直ぐ見据える、マァムとは真逆のそれこそ少しの弱みも見せないようなそんな女性。
余り表情を崩さないその顔は本当に綺麗で、みんなの憧れの存在だ。
だから。
さっきのような困ったような笑みや今のように子供のような表情なんて見たことがなくて。
正直、彼女に対して“カッコイイ”とか“尊敬”という名の感情なら持ち合わせていたが、
“可愛い”なんて、一度も思ったことなかった。
「ほら、あの、私ってさ、魔法使えないじゃない?だからパーティに回復呪文が使える人が
いなければ自分で治るの待つしかなかったし。薬草ったってそう直ぐには治らないしさ。
だからね、たまにやってもらうと不思議っていうかなんていうか」
恥ずかしいのだろうか。
必要以上に話し続けるはまるで何かを誤魔化すように見えた。
「だからね、いつも思うんだ。魔法使えるってすごいよね?って」
へへッっとポップを一度見て笑い、直ぐに視線をネコに戻してしまった。
・・・なんだろう、胸が騒ぐ。
単に街に買い物に来たからだろうか。
服はいつもの戦闘服じゃない、私服。
雨に濡れてずぶ濡れで、僅かに震える身体。
いつもの気を張り詰めたような雰囲気も無い。
ただの、普通の女性。
不意に思った。
本当は、本当の彼女の姿は、今此処にいるなんじゃないか?
笑顔が可愛くて、ふんわりしていて、子ネコをこんなに慈しむ優しさがあって。
いつものの姿はきっと、無理をした姿なのではないかと。
“女剣士”
その肩書きに押しつぶされないように、負けないように。
頑張ってるんじゃないか・・・?
・・・守りたい、そう思った。
もっと知りたいと思った。
思った途端、気づけばの腕を引いていた。
「うわっ!ちょっ、ネコが」
慌てて片手で持ち直したをネコごと胸に抱き締めた。
「えぇ!?」
動揺して離れようとしたに構わず腕に力を込める。
「・・・足、治ったぜ」
今更だけど。
「あ、ありがと・・・ってか、これどういう状況?」
腕の中の女性はある程度冷静になったのか、スッカリいつものだった。
「俺がお前を抱き締めてる」
ポップもわざと冷静に答えてやれば、ボンっと音がたったかのように一気に赤くなった頬。
「なっ!そうじゃなくて!だからどうしてこんなことに!」
突然オロオロしだしたはさっき取り戻した自分をまた失っている。
・・・あ〜、たまんねぇ。
「いつも・・・冷静沈着な女剣士さん」
ポツリと呼べばビクリと肩が跳ねた。
「俺も、そう思ってた。凛として、冷静で・・・綺麗で、大人な人だなぁって」
「うっ・・・」
言葉に詰まったは下を向いて黙ってしまった。
「でも、今此処にいたはネコを助けようとして怪我して、俺の魔法見て目を輝かせて」
「・・・・うぅ」
自分でも“やっちゃった”と思っているんだろう。
ますます顔を伏せたに回す腕に更に力を入れて引き寄せる。
するとの腕の中から「むみゃぁぁ」と苦しそうなネコの声が聞こえて苦笑しながら
僅かに力を緩めてやる。
「普段と違う一面が、可愛いなと思った。俺に自然に見せた笑顔に魅かれた」
「!?」
ビクンっと肩が跳ねるもまだ顔を上げてくれない。
その姿が余りにも弱弱しく映った。
・・・あぁ、彼女はこんなにも小さかったのか。
「きっと、いつものは無理に頑張ってるんだって思った。そう思ったら」
「・・・・・・」
「守ってやりたいと、支えてやりたいと思った」
「ポップ・・・」
そっと顔を上げ始めたに胸が高鳴った。
早く、顔を見せてくれ。
俺を、見てくれ。
「あの・・・」
頬がこれ以上ない程赤く染まって更に上目遣い。
見たいと思った顔が期待以上の表情だったため、眩暈がしそうだ。
「それって、そういう意味?」
潤んだ瞳に濡れた髪。
当たり前だが服もすっかり濡れていて身体のラインがハッキリ分かる。
小さい身体。
それでも普段はそんなのを跳ね除けて強く逞しく凛とした姿しか見せない。
そんなの全部が。
「・・・が好きだ」
「っ!」
「傍にいて欲しい。・・・ダメか?」
ポップの言葉をは真っ直ぐにポップを見つめた。
「・・・私は、女剣士なの」
「あぁ」
「男ばかりの世界では、強くなきゃいけなくて。感情に振り回されたらすぐに“女はこれだから”
って言われる」
「・・・あぁ」
分かってる。
参謀の片腕。
そこまで言われる地位にいる彼女は時に酷く冷酷な指示を出す時もある。
その作戦が成功するたびに、「女だてらに」という評価を得ている彼女。
「本当は・・・ちっぽけで弱虫な普通の女よ。貴方が知ってる私じゃない」
諦めたようにクシャッと笑ったその笑顔。
それが・・・たまらなくて。
「バカだなぁ。何聞いてたんだよ」
そんなの額に口付けを落とすと顔中真っ赤にする。
・・・ダメだこりゃ。
どうしてそう、俺のツボをつく。
「そんなお前を見て、“好きだ”って実感したんだよ。いつもの・・・よりもっとな」
「ポップ・・・」
「で?俺、ちゃんと返事聞いてないんだけど?」
ポップの言葉に「うっ」と一度詰まるも僅かに視線を下に落とした。
「・・・【大魔道士ポップ】」
「へ?」
いきなり自分の名を呼ばれて変な声が出た。
「な、なんだよ」
「魔法が使えない、けど魔法に憧れてた。そんな私の前に現れた、あのバーンを倒したパーティの一員」
「・・・・・・」
「実際に会ったらそんな風に見えなかったわ。ヘラヘラしてるしマァムとかレオナ姫にガツンガツン
やられてるし」
「あはは・・・」
最悪じゃん。
やれやれとため息をついて空に目をやる。
相変わらずの雨雲はなかなか遠のいてくれそうもない。
「けどね、ダイ君を探しに行くとき、一緒に行ったことあったでしょ?」
「あ、あぁ」
二度ほど、姫の指示で俺達の旅についてきたことがある。
実際は俺達が向う方面に用事があったため同行していただけだが。
「その時何度もモンスターに会った。その度に貴方は魔法を駆使してて」
「そりゃそーだ」
魔法使いだし。
「・・・憧れてた。剣で適わなくても魔法で倒せた敵もいっぱいいた」
「まぁ」
逆バージョンもあるが。
「気づけば、私・・・貴方の事ばかり目で追ってた。貴方が旅立ってしまった時はいつも・・・待ってた」
「・・・・・・・」
「顔には絶対出さなかった。貴方は遠い人。勇者の仲間。好きになってはいけない方だと」
「遠くない。俺の方こそ、そう思ってた。みんなの憧れの女剣士。近づけるわけねぇってな」
ギュッと抱き締める。
ザァザァと降り続ける雨の音が心地よい。
濡れた体は気持ち悪いが、腕の温もりを離す気なんてなかった。
そっと腕の力を緩め、の顎に指をあて上を向かせる。
「・・・了承と取っていいのか?」
真っ直ぐに見つめ返してくる視線は僅かに揺れる。
「私で・・・よかったら」
返事を聞いて、ポップは頬が緩むのを堪えられなかった。
「もちろん」
呟き惹かれるようにふっくらと赤く膨らんだ唇にそっと唇を触れ合わせる。
チュッという音が恥ずかしかったのか、「んっ」とが身じろぎをした。
その僅かに漏れた声にもう押さえられず、何度も何度も触れれば耐え切れなくなっただろうの口が
僅かに開いたのを察し、舌をねじ込んだ。
「んんんっ!?」
驚くの声を無視して咥内を味わう。
「んっ・・・ふあっ・・・」
頭に腕を回してキスを続けていると、自分との間から苦しそうな声が聞こえて漸く口を離した。
「むみゃぁ・・・!みゃぁぁ!」
「・・・あ」
どうやらずっと鳴いていたらしいけど、全然聞こえなかった。
ポップとは目を合わせて二人して苦笑いをした。
「・・・足、治ったし、帰るか」
多少残念だけど。
呟いたポップに頷いて、腕の中のネコに「ごめんねぇ?」なんて話しかける姿を誰にも見せたくなんてない。
「・・・それ、俺の前だけでやれよ?」
「へ?」
不思議そうなに苦笑いして頭をポンポンっとやってやる。
「皆の前ではいつもので居てくれな?余計なライバル増やしたくねぇし」
「は?ライバル?」
分かってねぇな・・・。ま、いっか。
「さぁ、帰ろうぜ?」
「うん!」
「・・・なぁ、聞いたか?」
「あぁ、大魔道士と女剣士のアレだろ?」
「っきー!何てことだ!あの人は高嶺の花だって思ってたぜ」
「・・・本当なのかなあ?確かに最近一緒に居るけどさ」
「だってよぉ、二人で居るところコッソリ見ちゃったんだけどさん、かなり態度違ったぜ?」
「覗きかよ、お前最低だな」
「Σだから見えたんだって!」
「あ〜はいはい」
人は願いを叶えたいと思ったとき、奇跡を願う。
ずっとずっと、願い続けた奇跡はきっと。
ほら。
貴女のすぐ傍にある。
花乃さまに相互記念で頂きましたぁぁー!!
ポップ夢!ポップ夢!本気でよそではお目にかかれないと思っていたポップ夢が私だけの為にぃぃ!!
しかも花乃さまのポップは本当に男前で、腰砕ける事間違い無しのカッコよさです!あれ、花乃さまったらいつの間にベタン唱えたんですか?orzこの姿勢のまま起き上がれないんですが・・・!!
本当にステキな夢をありがとうございました!どうぞこれからもよろしくお願い致します!