有意義な休息と言っていいのか・・


 

莫大な量の本や書類の数に呆然とする一方、まったくの無表情で本を作っていくの横で、ヒムは声をかけるべきかどうか悩んだ。

今、はポップが見たらその場で卒倒してしまうぐらいの量にたいして、ものすごい集中力を使っている。

此処で声をかけたならば、きっとその集中力は途切れてしまうだろう。

しかし、客人を何時までも待たすわけには行かない。でも邪魔を仕度はない。

主人の邪魔をするか否か、忠誠心が一番伴われる選択である。

「ヒム、どうかしたの?」

微笑みを浮かべて振り返るの表情に、結構前から百面相していた自分を観察されていたことに気付かなかった。

 

 

 

 

**有意義な休息と言っていいのか・・

 

 

 

「あ、アバンが来ています」

「先生が?」

 

何か怒らすような真似をしただろうか?

此処最近は薬草などの製造法に関しての本作りが忙しくて、ヒム以外とは言葉を交わしてきてはいない。

誰かからの言伝は大抵ヒムが休憩の時間に教えてくれるから、外部から孤立するような真似は今までなかったが、生憎アバンを怒らすようなミスをした覚えはない。

ならば何なのだろうか?

 

、はいりますよ」

「先生、お久しぶりです」

控えめに扉を開けたそこから顔を覗かせ、微笑みを浮かべる男をヒムの体の横から見つける。にっこりと微笑みながら、その場に立ち上がり部屋の中へと

入ってきたアバンに近寄り、差し出されたその手を掴む。

 

「どうしたんですか、急に?何か怒らせる様なミスしましたか?」

「いいえ。実はこの間来た時に、ヒュンケルや女王から貴女がとり憑かれたたように仕事をしていると聞きましたので、息抜きに甘いお菓子を作ってきました」

「・・・・・・・・・・・・・誰か何時とり憑かれたって言うのよ」

 

僅かに怒りを含むいい方に、言われても仕方がないのではと思ってしまったヒムを鋭くにらみつけた。妙なところで勘のいいのはやめていただきたい。

 

「ささ、座って座って。美味しい紅茶も持ってきたんですよ」

「いえ・・でもまだ仕事残ってますから」

「無理をするのは体に毒です。今は休憩して私が作ってきたお菓子を食べるのが大優先です!」

「なんですその勝手な言い分は」

のために作ってきたんですから。ああ、ヒムも如何です?」

「いや、いらね。様、俺は退室させて頂きます」

「あ、ヒム・・・・」

 

呼び止める声を無視し、部屋から出て行ったヒムに肩をすかしてその場に座った。きっと久しぶりとなる客人の上、相手が自分の師匠であるから気を使って

くれたのだろうが、そんな物は必要なかったのに。

まあ、ハドラーの宿敵であった相手・・・と言うのもあるだろうか。

 

「すっかり主従関係が板についていますね」

「・・あたしは、普通に接してくれて構わないんだけど」

お互い苦笑い。ヒムだけでなく、ラーハルドもまた、ヒムと同じような態度をダイにとっているのだ。

「で、本当に何しに来たんです?今更交友関係築きに来たわけではないんでしょう?」

「だから、貴女が心配で来たんですよ」

「信じられますか」

てゆーか、いまどっからそのポットとカップを取り出したんですか?熱々じゃないですか。

普通に笑顔でなみなみと紅茶を注ぐその姿はまるで家政夫。これが嘗て有名になった勇者の慣れの果て・・・・・・。

なぜか自分に襲い掛かってくる哀愁に寂しさと虚しさという感情を投げ捨てるように、視線を横へと投げ捨てて差し出されたカップを受け取った。

 

「それで、

「はい?」

アバンの目が鋭さをます。

どうやら、今日来たのは何か重大な事を知らせるためのようだ。

表情から読み取ったは、カップを一旦机へと置こうとするが、アバンの目は飲んで構わないと、勧めているのではなくまず飲めと訴えている。

訴えられたら飲むしかない・・・・。

肩の力を抜くような優しい匂いと味に包まれ、口内に温かい液体を迎え入れる。

久方ぶりに、ゆったりと―いや、目前にいる人間の発言によって、このゆったりと一瞬でも感じた空気は消え去ってしまうだろうが今はゆったりという表現をして

おこう―を噛み締める。

 

 

 

 

 

「いつヒュンケルと結婚するんです?」

 

 

 

殺したいッ!!!!

 

それはもう根性と言う名の勲章を与えられる努力の結晶だ。

噴出しそうになった熱い液体を喉へと無理やり押し込み、何度も何度も咳を繰り返す。

 

「ゴッ!・・こ、のッゴホゴホ・・・なッ・・・ゴホッ!!」

咳の合間を見つけての文句は意味を成さないのを知りつつ、口からは絶え間なく咳と文句が紡ぎだされる。

心外だと目を大きく開くアバンに、何が心外だお前はと言ってやりたい。

 

「貴女もヒュンケルもいい年です。そろそろ身を固めてはどうです?」

「――何言いだすんですか!!!」

 

やっと言えた。あーすっきり何て終わらしてやる気はないが。

 

「いい年も何も、まだそんなつもりはありません!もし結婚するとしても、それはあたしとヒュンケルで決める事なので先生にそんな事言われる筋合いありません!!さんざんフローラ様ほったらかしにしていた先生にまず“いい年”なんて言われたくないんですよ!!!」

「・・・その話題を出されると、さすがの私もへこみますよ・・」

「勝手にへこんでください」

冷たい容赦ない弟子の言葉に、やれやれと溜息をつく姿を見せてやる。何か、不穏な動きを感じ取り、溜息をつくさいに閉じた目を開けば、短剣をアバンに投げつけようとしている弟子の素晴らしくも恐ろしい気迫迫る姿。

 

「・・・・・・一応、あたしも疲れてますので、あまりふざけた事言ってるとコレとメラゾーマをかましますよ?」

「いえ、メラゾーマはやめましょう・・貴女のメラゾーマはハドラー譲りなのですから」

灼熱の地獄の炎。

父親が最も得意とし、その己の魔法を娘へと、人間でありながらハドラーの寵愛を受けていたにとってはお手の者。

ハドラーの名前が出たところで、の表情に僅かだが影がささった。

その表情に、失言だったかと己の浅はかさに愚痴をついた。

 

嘗てまだハドラーが魔王として世界に君臨した時、ハドラーに気付かずに言い争いをする夫婦がいた。

その夫婦のいい争いをする原因となったのは、生まれてばかりの自身だった。元々子供などいらない。夫婦となるつもりもない。

そんな二人の間に生まれ、そして魔王が攻めてきた。こんな愛してもいない子供など連れて逃げても、泣き叫んで居場所を知られて殺されるだけ。

それでも、一応は生まれてきた命。連れて逃げようとは思うが、自分自信が連れてなどとは思わないのだろう。

あまりにも醜いその二人を、ハドラーは灰とした。

その場に残った、哀れな赤ん坊もまた始末をしようと、掴みあげた瞬間。

ハドラーとが出会った瞬間であり、種族を越えた父と娘となった瞬間だった。

魔族の、それも魔王であるハドラー相手に、小さな両手を精一杯伸ばし、笑ったのだ。

楽しそうに、まるで大好きな父親を目にして、キラキラと輝く目をハドラーへと向ける。

殺す気が失せた。

 

 

ハドラーに聞かされた話が、走馬灯のようにの脳裏を駆け巡る。

そう、あれはハドラー親衛隊と初めて顔合わせして、ヒム達に連れられ、超魔人となった父と初めて再会した時。初めて“父上”と呼んだ時の事を。

 

「――ハドラーは、死ぬ瞬間に私に頼んだのです。“を頼む”と」

「・・・・・」

「大切な友人からの頼みですからね、頼まれたからには徹底的に面倒を見なくては。ま、私が貴女の花嫁姿を早く見たいと言うのが理由ですが」

「・・・・・・・・・・・・・結婚は、今の所は無理ですよ」

少しの間を開けたが、はっきりと言う。

だが、さっきと違い、穏やかである。

 

「あたしは別にいつ結婚しようが構わないんです。でも、まだヒュンケル自身にその気はないようですし、今は彼なりにどう生きていくかを考えている最中です。答えが見つかるまでは、待つつもりです」

「ヒュンケルは意外に奥手ですからね」

あんたに言われたくないは。

「でも、本当にそうでしょうかねぇ」

指を左右に振り、を見る目に眉をしかめる。なんだ?まだいちゃもんをつける気なのか?

 

「戦いが終了してすぐ、貴女はヒュンケルに行き先も告げずに姿を暗ましたでしょ?」

「う・・」

「なのに、ヒムとラーハルドには居場所をあらかじめ教えておいた」

「ぐっ・・」

「大変だったんですよー。あのヒュンケルの全て絶望にまっしぐらへと落下していくような淀んだオーラと沈みようったら。それでよく旅が出来たものですよ」

「・・・・・・」

「やっと見つけた時はさっさとルーラでとんずらかまされてましたし」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

何も言い返せなくなり、恨むようににらんでくるに意地悪し過ぎたとようやく気がついた。

「ま、まあ・・・今はこうして落ちついているわけですし・・・・」

「結局何がいいたいんです?」

「早く結婚し―」

「もういいです」

阿呆らしい。

少し冷めかかってきた紅茶を口へと含み、喉を潤す。

冷めはじめた液体はなんら支障を与えずに喉を通っていく。

その感覚がやけにリアルに感じるとはやく、結婚しろと訴えてくるアバンに対し、ふとその話題をだす相手が違う事に気がつく。

 

「・・・・先生」

「はい?」

 

呑気に自分が作ってきたケーキを食べている。机の上へとカップを置き、つかれたように額を指で押さえた。

 

「父上にあたしの事を頼まれたと言う事は知っています。あたしもその場にいたのですから」

「ええ」

「で、あたしは別にいつ結婚しようが構わない」

「聞きましたよ」

「でも、ヒュンケル自身にその気はない」

「それも聞きましたよ」

「そして、先生は早くあたしの花嫁姿を見たい」

「ええ」

「なら、ヒュンケルに話せばいいじゃないですか」

「・・・・・・・・」

 

 

少しの間の沈黙。

そして、笑顔で立ち上がり、部屋から出て行った。

返せ。貴重な時間を返せ。

今頃、ヒュンケルを探しに廊下を歩いている教師の姿を思い描き、だんだんと温かさを失っていくカップを見下ろした。

 

 

 

過去に浸ったりした時間も自分も、なんてアホらしいことだ。

 

 

 

 

 

 

fin.
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お宝と8000HITのリクエストを下さった雛祇さまから、恐縮ながら御礼を頂いてしまいました〜!!
ちょ・・・ッ!ヤバス・・・!
アバンに気を張らないと言い負かされてしまう話し甲斐のある子、として見られてるカンジがいいんですよ!
「は?大勇者?はん」みたいなツン振りがきっとM属性のアバンには可愛くてしょうがなi・・・  おっとと!
雛祇さんのお話を汚しちゃいけない!
結婚する気マンマンのヒュンケルに対してのデレ振りに、ツンデレの極意を見た気がします。
アバンだけにはツン!
これ極意 。
雛祇さまのヒロインちゃんはクールビューティーで清々しく気持ちの良い子なんですっ!
私も色んなヒロイン像を書いてみたいものです・・・。
ド Mの私にはツンツンが出来ない性癖です(おまえのは聞いてない)

兎にも角にも、雛祇さま、素敵なダイ大小説をありがとうございました〜!!