昼休みの呼び出し


、お昼休みに資料室に来てください」

 3時間目が終わったあとの休み時間、一人で廊下を歩いていたにアバンは声をかけた。
 すれ違いざまに言われたので、は用件を聞く間も返事をする間もなかった。

 忍びながらではあるが教師のアバンと恋人同士だった
 時折アバンが自室にしてる資料室へ、なんとか用事を作り上げて遊びに行くことはあった。勿論、休み時間ごとに逢いに行きたいのは山々だったが、お互いの立場を考えたらそういう訳にはいかないのはにも分かっていた。なので資料室へ赴く回数は他の生徒と大してかわりがない程であった。
  だから来いと言われて嫌な訳がない。
 むしろ嬉しい。

 でも 何かおかしい

 は今のアバンに言い知れぬ違和感を覚え、廊下を歩いていくその背中を訝しみながら見送っていた。



 コンコン。
「はい、どうぞ」

 は昼休みになると、弁当も食べずに一目散に資料室へと向かった。
 違和感はあっても大好きなアバン先生に呼ばれたのだから、どんな用事であろうと嬉々としてその足を弾ませていた。
 入室を促されたは、つい周囲を見渡して誰もいないのを確認してから資料室へと入っていった。
 整然と天井までの高さの本棚に詰まれた資料集の数々や、地図や教学用具を納めたこの部屋は、少々の埃っぽさはあるものの、綺麗に片付けられていた。
「アバン先生、来ました」
 机に向かって書き物をしていたアバンは、スチール製の重々しく事務的なイスをぐるりと180度回転させ、ギシリと耳につく音をさせながらその背もたれに上半身を預けた。
 向けられた顔を目にした瞬間、はその笑顔を凍らせた。

先生…………怒ってる……?

 一瞬前の甘い胸の動悸とはうって変わって、今はじわりと不快な汗が伝わるのを頭の隅で感じている程、冷たい動悸が全身を打ち付ける。
 再び耳につく音を立てながら、アバンは腰を上げた。
 そしてまでの数メートルにも及ばない距離をゆらりと縮めていく。
 は震える手を身体の横でスカートを握り締める事で抑えようとしていた。ひざがガクガクと震え、崩れ落ちそうになるのを必死に耐える。深い怒りの色を帯びた瞳からは視線を逸らす事さえ許されない。呼吸も忘れて、ただアバンを目の前にまで近づくのを許していた。

「3組のノヴァ君に告白されていましたね?」

「ど……!」
 どうしてそんな事知ってるんですか。
 そんな言葉すら上手く口から吐いて出てこない。アバンの瞳と低い声に、唇はただ細かく震えてるしかなかった。

 実際、アバンの言った事は本当だった。
 昨日の放課後、図書館でノヴァに告白をされた。
 図書室でバッタリ会った二人は少しばかり他愛もない話をしていた。司書がトイレに行ってくると二人に声をかけたのと、館内に他に人気の無かった事がノヴァの勇気を後押ししたのかもしれない。
「僕……の事が好きなんだ……! 付き合ってくれないかな……?」
 突然の告白に目を丸くした
 経験した事のない場面にの思考回路は、既に使い物にならないくらいその機能をなしていなかった。出来た事はポツリと
「ごめんなさい」
と、俯く事だけだった。
「誰か他に好きな人がいるの? それとも付き合っている人がいるとか? 僕、もう希望がないのかな?」
 沸騰寸前のその思考回路に矢継ぎ早に質問されては、すぐに答えを導き出して口にするという事は土台無理な話であった。
 幾ばくかの無言の間の後、
「ご、ゴメン! 困るよね、こんな事聞かれても! わかった。あの、気にしないでね! じゃあ!」
 そう言ってノヴァは図書館から駆けて去っていった。



「どうして知ってるんだっていう顔ですね。いたんですよ、その時、図書館に」

 こんな意地の悪い顔のアバンは見た事がない。
 は恐怖すら覚える。
「わ、私、ちゃんと断りました……!」
 震える声で何とか否定する事が出来た
「でも断った後、間がありましたね。何か頭をよぎりましたか? …………私を捨て、ノヴァのところに行くとか」
「そ、そんな……!」
 困惑するを余所に、アバンは話し続ける。
「十六歳のノヴァ君が十六歳の貴女に告白する。至って普通の事です。……こうして教師である私が生徒の貴女に想いを寄せる事の方が異常なんでしょうね」
 は弾かれるように頭を上げる。
「異常だなんて……! そんな事、言わないで下さい……!」

 信じられなかった。
 いつも優しいアバン先生がこんなことを言うだなんて。
 否、言わせてしまっているのは自分だ。こんなに先生を怒らせてしまった。嫌われたのではないか。その恐怖と、恋人としての自分の不甲斐無さを思い、は溢れる涙を止めることが出来なかった。
「ノヴァ君には何とも思っていません。想うのは自由です」
 ただ。そう言って向けられた瞳の冷たかったこと。
「貴女には隙があるようですね。だから告白なんてされるんです」
「ご、ご……め……、な、さ…………」
 理不尽な怒りに疑問も持つこともなく、謝る事しか出来なかった。膝から崩れ落ちて泣き伏したい程であったが、アバンの氷のような隷属を強いる瞳に竦んでしまい、膝を折ることさえ叶わなかった。
「ごめ……、さ……、ご、めん…………な、さぃ……!」
 怒りを鎮める祈りのように、最早は嗚咽ながらに謝罪の言葉を繰り返す。その様子に満足したのか、アバンは口の端をく、と上げた。

「悪い子にはおしおきですね」

 はその小さな肩をピクリと揺らす。
「後ろを向きなさい」
 くらくらするアタマに命令をされれば、意図のわからない言葉でも素直に従ってしまうのは仕方の無い事だろう。はそろそろとアバンに背を向けた。
 ポツリとどんな事でも受けようと想った瞬間だった。
 突然、後ろから力強く抱きしめられた。
 首筋にアバンの顔が乗せられるのを感じる。驚きはしたが、香りはいつもと変わらないアバンに、は沈む気持ちを落ち着かせた。だが、そんな安堵も長くはもたなかった。
 アバンの手は荒々しく胸を揉みしだきはじめた。気付けば首筋にかかる息も荒く、熱い。途端には頬を紅潮させ、身をよじる。
「だ、ダメ……! せんせ、ここ、学校……!」
「ええ、そうですね。しかも今は昼休みで校内中に人がいる」
  は耳元で話しかけられるくすぐったさと、その言葉に身体を小さく強張らせる。
「それにこの部屋は鍵がかかっていない」
 今度はそれとわかる反応があった。
「だ、めよ……っ! 誰かに、見られたら……!」
「だからおしおきなんです。ただ楽しむだけではおしおきにならないでしょう?」
 声は既にいつもと変わらない優しい声色であったが、抱きすくめた腕を緩めることはなかった。
 拘束しながらもブレザーの下に着ている薄手のベストを捲り上げ、器用に一つ二つとボタンを素早く外していく。そして開かれたブラウスから、あっという間に手を滑り込ませる。学校の中で絶対に感じるはずのないアバンの肌の感触を、今まさに感じている。その有り得なさにただ翻弄されるしかなかった。
 普段ないような荒っぽさでブラジャーの上から包み、その形を変える。そしてするりとブラジャーの中に指を進め、既に硬くなっている蕾を摘み上げた。
「っんん!」
 ブラジャーからこぼれんばかりのその二つのふくらみを、カップからずらしてこの資料室の外気に晒す。そして両の指先で肌よりも色濃くしてる部分を摘み、爪先で刺激を与える。
「……んあっ! やぁ……ッ!」
「ほら、大きな声を出すと廊下に洩れてしまいますよ」
 耳元で凶悪なほど色の篭った声で囁く。
「……ッく……ぅ……!」
 は必死に唇を噛み締め、声を押し殺す。

「お昼休みになると時々、生徒達が遊びに来るんですよねぇ」

 これにはも首筋にいるアバンへ振り向かざるを得なかった。
「だ、めっ! やっぱり、せっ……んん!」
 噛み付くようなキスを落とす。
 アバンは口内を蹂躙しながらも胸の頂きを攻めるのも忘れない。
「っふ……! んん……! んっ!」
 の膝はもう立っていられないほど震えていた。
 下しきれない唾液が顎に伝わり、それは伝い洩れて、胸元の赤いリボンの生地の色を変える。
 唇を離すと夢も現もつかないといった表情で、グラリと崩れ落ちそうになる。手放しそうな意識の隅でポツリとアバンの声が響いた。
「急がないとな」
 いつも二歩三歩と人より先を見据えるアバン、今も何かしら策を弄してるんじゃないかと心のどこかでに思っていたのだが、今の呟きにその希望は潰えた。本当に今、この部屋は鍵がかかっていないし、いつでも人が入ってこれる状況であり、しかも人が出入りする機会は多いときた。
  軽く青ざめるの腕を掴み、今まで座っていた自分の机に両手を付けさせた。腰を突き出すような格好だ。慌てて振り向くと、すでにスカートは捲られ、下着に手が伸びていた。
「せんッ……!」
「しっ」
 口の前で人差し指を立てて戒められてしまえば、もはや何も言えない。下着が足首まで落ちるのを感じるしかなかった。
 こんな明るい時間、しかも学校でこんな姿を晒してる。消え入りたいほど恥ずかしくて、誰かに見つかってしまうという危険を震えるほど分かっているのに……
「おや、もうこんなに濡らして。この状況に感じてるんですか? いけない子ですねぇ」
「ち、ちが……っ!」
 否定の言葉は、秘裂に指を滑らせた感触に、くぐもった声にすり替えられてしまった。
「……っふ……ぅ……!」
 するすると引き込まれるようにアバンの二本の指はその熱く溶けた中へ進入していく。卑猥な水音がの耳に届く。
「これだけ濡れてるなら大丈夫ですよね」
 何が? と思った時にはもう、ベルトのバックルを外す金属音が忙しく聞こえた。
 そして愛撫もそこそこに、無遠慮にアバンは突き挿れた。
「んうぅッ!!」
「……っはぁ……すごいですね……」
 滑りが良くて難なく挿れることは出来ても、ほぐされていないソコは急に与えられた圧迫感に少々の痛みを覚える。その強張りはいつも以上にアバンを締め付けた。
 そしてアバンはの腰を掴み前後に揺さぶりはじめる。

 とっくに机に手を付く事さえ出来ないは、頭と上半身をその灰色の無機質な机に預けていた。アバンが腰を打ち付けるたびにその机は小さく軋んでいた。静かな資料室には肉のぶつかり合う音、粘着質な水音、そして指を噛み締めても洩れてしまうの嬌声が響く。
 必死に声を洩らすまいと、噛み千切りそうなほど指を口にしているを見て、アバンは白衣のポケットからハンカチを取り出すと、の口に運んだ。
「これを噛んでなさい」
 揺さぶられながら素直にそのハンカチを口にした。

 先生の香り……

 口に広がる愛しい人の香り。
 後背位の姿勢で顔も見れず触れることも叶わず、正直寂しかった。身体はつながっているのにどこか離れているようで……。欲しかった香りが胸いっぱいに堪能出来ると、の身体は喜びに包まれた。
「おや?」
 アバンはの顔を覗き込む。
「急に溢れてきましたよ。私のハンカチに感じてしまったんですか?」
くく……、と喉の奥を鳴らす。
 はうつ伏せていた顔を少し起こし、後ろのアバンへと向ける。

「だっ、て…………アバン先生の……こ、と、好き、だから……」

 息を呑んだ。
 真摯で、でも情欲に浮かされ蕩けている瞳に。

 だがその間も腰の動きは止まらない。
「好き……! せんせ……が、好き……! せんせ、だけ……ッ!」
 何かが脳天を突き抜けて急激に高まる感覚。
 アバンはを机から起こすと、その上にあった書類やら一切を払いのけた。そしてをその上に寝かせると、腰を引き寄せて荒々しく抽送を再開した。はアバンの首に腕を回し、しがみつくように髪に指を絡ませる。
「好き……! 好き、よ……! 私、には……せんせ、だけ、なの……っ! せんせ、しか、いらない……ッ!」
「私も……貴女が好きだ……っ! ……ッ! 私だけを、、見ていて……ッ!」
 唇が触れるか触れないかという距離までしか離れたくなくて、でも想いを伝えたくて。叫びに近い告白を終わらせると、隙間も惜しむように身体と唇を重ね合わせ、同時に絶頂を迎えた。





「すみませんね、。私のつまらない嫉妬に付き合わせてしまって……」
 教師のアバンの部屋にいる為の口実としてプリント作りを手伝う。アバンは肩を落としながらホッチキスをパチンパチンと鳴らしている。
「いいんです。きっと逆だったら私も同じ事思ったはずだから」
 ニコリと微笑む。
 そんな笑顔を見て救われる気がするが、一呼吸置くと真剣な顔をに向ける。
「ねぇ 。貴女はまだ若い。恋だっていっぱいできる。貴女だったら引く手数多でしょうし、わざわざ私みたいなオジサンにこうして……「それ以上言ったらこのホッチキスでその口、閉じますよ?」
 の持つピンク色のホッチキスがキラリと光った気がする。
「………………申し訳ありません」
 もう色んな事含めて謝る。
「じゃあ……何かお詫びしてくれますか?」
「ええ、モチロン! 何でも!」
「そうだなぁ……じゃあ、先生ん家行って、ゲームして、ご飯作ってくれて、夜に少しドライブして、帰ってきたら一緒にお風呂入って、マッサージし合って、それで一緒に寝るの」
「それじゃいつもと一緒じゃないですか。もっと特別なことはないんですか?」
 キョトンという顔をする
「私には全部特別なの。だって先生といられる事が特別なんだもの」
……」
「……先生、目からうろこが出てますよ? もう、こんな事も分からなかったんですか? 困ったチャンだなぁ」
 チチチ、と顔の前で人差し指を振る。
「さっきの仕返しですね仕返しなんですね。うう、ごめんなさい。色んなモノひっくるめてゴメンなさい」
「はい」
「それと、ありがとう」
「はい」
「好きですよ」
「私も大好きです」

 柔らかい笑い声が昼の資料室に響いた。





 は5時間目の数学を机から顔を上げられないほどの空腹で耐え、休み時間になった途端に1階のパンの自動販売機にダッシュしたが、売れ残った頭脳パンしかありつけなかった為、アバンは2日も口をきいてもらえなかったのは別のお話し。
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(2006.6.3)