誰が為の狂想曲?
見得は張りたいけど、張り過ぎると嫌われるかな。
それとも笑われるかな。
こんな事ばかり気にしてる事、君は気付いているのかな。
気付いているなら、気付かない振りをしていて欲しいんだ。
ただの、我が儘だけど。
誰が為の狂想曲?
携帯電話で連絡を取り合い、レオナに追いついた――それはまあ、問題にすべき事ではない。
電柱の影に身を潜め、連れ添う二人の男女を眺めているこの状況では、瑣末な事でしかない。
電柱の影、とは言え、達三人が納まるにはあまりに頼りなさ過ぎる。
だが、レオナはそんな事はお構い無しにどこまでも探偵気分を貫きたいらしく、を従えて電柱の影にへばり付いたままだ。
ラーハルトに至っては身を隠す事無く堂々としたものだが、如何せん連れの態度が拙過ぎる。
その所為で周囲から訝しげな視線が突き刺さるが、幸いな事に前を歩く二人には気付かれている様子は無い。
気付かれたなら――否、気付いてくれればこんな苦労はしなくて済むだろうが。
端的にエイミ――主に彼女の恋愛事情――についてレオナに説明したのが拙かったか。
話している内に段々とレオナの瞳の輝度が上がっていく事にもっと早く気付けば良かったかもしれないが、気付いた時には手遅れだった。
異常なまでにテンションの上がった彼女は、最早の言う事など耳に入ってすらいない。
だが、爛々と目を輝かせるレオナには悪いが、笑い合いながら歩く二人は彼女が邪推するような関係ではないだろう。
そう思うが、口には出せない。
出した所で意に介されないに決まっている。想像するまでも無い。
「仲良さそうね、あの二人」
「付き合ってるんじゃないか?」
「そんな筈無いと思いますけど。エイミさん、面食いですけどそこまで移り気では無いと」
「二股かしら」
「かも知れんな」
「ラーハルトさん、適当な事言わないで下さい。レオナさん、それ以上目を輝かせないで下さい」
「でもさっきから高そうな店ばっかり入ってるわよ、あの二人」
見なさい、とばかりにレオナが華奢な指先で示すその先には外資系高級ブランド専門店。
確かに、先程から二人が出入りする店は店先に警備員が張り付く『高そうな』店ばかりだった。
反論の余地を見出せず、仕方無しには押し黙る。
「女に贈るなら宝石か服か…定石だな。アイツらしいが」
「貢がせてるのかしら。中々やるわねえ」
「そんなに気になるなら直接訊けば良いじゃないですか…」
うんざりしながらは一人納得したように頷くレオナを見上げる。
の胸中など知りもしないレオナは、電柱の影で控えめに、だがしっかりと拳を握り熱弁を振い始める。
「駄目よ!は彼女に面割れてるんだから。訊きに行ったりなんかしたら逃げられるわよ」
「それ、二股前提の発言じゃないですか」
「そっちの方が面白いじゃない」
溜息を吐く事も無く、は閉口する。二の句が継げない、とは正にこの事だ。
『面白い』と言い出した彼女に成す術は無い。
人を『巻き込む』事には慣れていても、『巻き込まれる』事には慣れていないにとって、この状況は面白くない。
否、面白くない、というより、ただ居心地が悪く落ち着かない。
到達点だか着地点だかが判然としないまま引き摺られる事に漠然とした不安感さえ覚える。
――ちょっとだけ長兄に対する『愛情表現』を緩和しよう、と心に誓う。誓うだけ、だが。
不意に、思いついたようにラーハルトが口を開く。
「ならば、オレが行くか」
「…そうね、彼女はラーハルトの事知らないもの。頼んだわよ!」
「ああ。二人とも、気付かれんようにな」
「了解!」
すちゃ、と敬礼を返すレオナに小さく頷き大股で歩き去るラーハルトの背を、は呆然と見送る。
誰も彼もこの状況を楽しんでいるとしか思えない。
まさかラーハルトまで乗り気でこんな茶番に付き合うとは。
真っ先に『馬鹿馬鹿しいな』などと吐き捨ててさっさと帰ってしまうかと思ったのだ――その方がにとって都合が良かった――が、意外な事に付き合いが良いらしい。
だが、そんな事に気付いた所で、今のにとっては何の救いにもならない。
もしかしたらこれさえもただの嫌がらせかもしれない。
だとすれば、嫌がらせとしては出来過ぎるほどに上出来だ。
肩を落とし、は半眼で呟く。
「なんでそんな息が合ってるんですか…」
「なあに、嫉妬ぉ?」
「馬鹿言わないで下さい。
何があってもあの人に嫌悪感を抱く以外の事は無いです寧ろそんな事があったら舌噛んでその場で果てて末代まで祟り続ける所存です」
「…そこまで嫌うかしら。普通」
「第一印象から敵だと認識してます」
「…まあ、良いけど。そっちの方が面白いし」
不可解な理由で納得したレオナに、は首を傾げる。
褒められたのか貶されたのかさえ判然としないが、今気にした所で何の益も無い。
気を取り直し、はレオナと共に再び視線を前へ向ける。
タイミング良く、店から出てきたばかりの二人にラーハルトが声を掛けているのが見えた。
二人――エイミと、アポロ、だったか――はラーハルトに声を掛けられ驚いたらしいが、すぐに表情を変えた。
声こそ聞こえないが、アポロの方は『偶然会えた知人』ににこやかに話し掛けている。
陰気臭い極悪人面の『知人』とは違い、穏やかに且つ爽やかに応対するその姿は実に好感が持てる。
――類は友を呼ばないらしい、とは古人の格言を胸中で修正する。
因みに、アポロの隣に立つエイミは陶然とした表情でラーハルトを見上げている。
面食いにも程があるだろう、と本日何度目になるか分からない溜息を吐こうとして、止める。
無表情でこちらを振り返ったラーハルトが、ぞんざいに手招きをしている事に気付いた所為だ。
「あら?」
「どうしたんでしょうね?」
思わず顔を見合わせた。
どちらにしろ尾行は失敗だ。こそこそする必要が無くなったのは有難い。
安堵と不安が綯い交ぜになったまま、電柱から離れて走り出す。
いい加減、人の目を引くだけの場所に延々居続けるのは御免だった。
女三人寄れば姦しいという。
それが事実であろうと虚偽であろうと目の前で実証された以上、認めない訳にもいかない。
金髪の少女とリボンの女の子――レオナと、だったか――は早々にエイミと意気投合し、その件に関しては置いてきぼりを食った感がどうにも否めない。
色恋沙汰に口を挟みたがる性分は年齢こそ違えど、女性特有のものではないだろうか。
とまれ、永遠に続くかに思えたエイミの『品定め』にこれ以上付き合わなくて済む事は有難かった。
首を巡らせ、背を預けたガラス越しに店内を見遣れば、楽しそうに買い物に興じる三人の姿があった。
彼女達の楽しげな様子に、僅かにアポロは苦笑した。
楽しげな彼女達には申し訳無いが出来れば早く切り上げて出てきて欲しい、と思う。
あまり長く店先で待っている訳にはいかないし、隣で腕組みして立つ男の機嫌もそろそろ限界だろう。
「…女の買い物は長いな」
「同感だ。だが…珍しいな、君がこんな所に居るのは」
独白染みたラーハルトに応じ、アポロはラーハルトの表情を伺う。
女性の買い物が長いという点に関しては男側の共通見解だろう。
だが、人間嫌いのきらいがあるラーハルトが好き好んで人の多い街中に居るとは。
珍しい、というより寧ろ稀有だといえる。
アポロの言葉を詮索と取ったか、ラーハルトは酷く渋い顔で応じ、
「…仕方なかろう。『あれ』に付き合わん訳にはいかんからな」
ガラス越しに顎を刳る。
その先を目で追えば、鮮やかな色のリボンで丁寧に髪を纏めた小さな子供。
ここからでは後ろ姿しか見えないが些か草臥れた様子で、エイミと金髪の少女にしきりに頷いている。
「『あれ』って…ちゃん、だったか。知り合い…か?」
歯切れの悪い訊き方だ、とアポロは自覚する。
『知り合い』というには歳が離れ過ぎ、かと言って『妹』にしてはあまり似ていない。
ただ、店に入る前、『ここで待っている』と面倒気に言い放ったラーハルトを睨み上げたあの目付きは、『手前ェだけ楽しやがってこの野郎』と言わんばかりの勢いだった。
エイミから聞いていた通り、小学生らしからぬ礼儀正しさで挨拶してくれた彼女には悪いと思う。
だが、あの時の彼女の雰囲気は――隣で不機嫌さを前面に押し出し腕を組んだまま微動だにしない男にそっくりだ。
歯切れ悪く且つ自信無く問い掛けるアポロに、ラーハルトは素っ気無く言い捨てる。
「友人の妹だ」
「…友人?」
「何か問題でもあるか?」
眉尻を跳ね上げたラーハルトに、アポロは慌てて弁解を組み立てる。
人間嫌いに『友人』がいる事に、正直に驚いたアポロに非は無い。
その反応が至極真っ当なものであるには違いないが、怒らせて良い相手では無い。況や敵に回すなどとんでもない。
時折妙に沸点が低くなる彼の逆鱗に触れ、三日ほど顔を見なかった彼らより一回りほど年上の同期は――。
否、不必要な事を長々と述べるべきではない。
結論だけを述べるなら、彼は徹底してラーハルトを避けた数日後、講義室の空席を増やした。
それだけ、と言えばただそれだけの事だが。
「いや、そういう訳では無い!ただちょっと意外だっただけで!」
――嫌な事を思い出しつつどうにか出た弁解は、ただの言い訳に過ぎなかった。
だが、アポロの焦りに反して当の本人は落ち着いたものだ。
アポロの過剰反応など歯牙にも掛けていないだけか、本人に自覚があるだけなのかは今一判然としないが。
「そもそも問題があるのはお前の方だろう。他人に助力を請わんと何も出来んのか?」
意外な、だがかなり痛い所を突かれ、アポロは苦笑する。
付き合いの長い恋人の誕生日。
毎度毎度、何を送れば良いか悩んだ挙句定型通りの物しか贈った事が無い。
彼女は喜んでくれるが、流石に毎回同じ様な志向のものばかりでは悪い気がする。
かと言って、下手に志向を変えた物を贈っては彼女の不興を買わないとも限らない。
散々悩んだ挙句、彼女の妹に助力を請う、という聞こえは良いがただ他力本願なだけの――苦肉の策だった。
「…嫌味だな、ラーハルト」
「違うのか?」
「違わない、な。いざとなると何を贈って良いものか分からなくなってな」
「だからと言ってその女の妹に助力を請うのはどうかと思うが」
「一番良い方法だと思った。姉妹なら、お互いの好みも知っているだろう」
「判断そのものは間違っていないが、その妹が姉に告げ口せんとは限らんだろう」
ラーハルトの皮肉ともとれる忠言は耳に痛いが、アポロとてその件について何も手段を講じなかった訳では無い。
――『それ』を思い出し、意識が遠退くような心地がする。
「しっかり口止め料は渡したから大丈夫だ…多分な」
「…高くついたな」
「教訓にはするさ。女性の口止めは苦労する、高くつく、しかも」
「口を滑らさないとは限らない」
「全くだ」
「知られれば、落胆すると思うぞ」
「誰が?」
「つくづく思うが、どうしてそう、お前は融通が効かんのだ?」
いつもの皮肉気な表情を消し、心底呆れたような顔をするラーハルトにアポロは首を捻る。
――何か見落としていただろうか。
と、不意に思い当たり、アポロは思わず口に手を当てる。
彼女、だ。
忘れていた訳ではないが、『何を贈るか』にしか焦点を当てていなかった所為で見落としていた。
「…あー…それは、考えてなかった、かな…」
「融通が効かん訳ではなく、見通しが甘いだけか。致命的だな」
「正論だけに、言い返せないな…。今度の討論は厳しそうだ」
「また勝つ気だったのか?無謀だな」
「全くだよ。彼女への贈り物も自分で決められない癖に、な」
鼻で笑われ、アポロは自嘲する。
彼の言う事は尤もだ。
見通しが甘過ぎる。
講義の討論でさえ幾度か彼に論破され、その度に反省していたというのに。
――だが。
「だが、見栄ぐらい張りたいと思うのが普通だろう?少しでも良く見られたいと思う事は、悪い事か?」
「悪くは無い。だが、そう思うなら自分で選ぶべきだと思うがな」
「自分で選んだものが彼女の気に入らなかったら?オレはお前と違って人並みに臆病なんだよ、ラーハルト」
「人を傲岸不遜のように言うな、アポロ。オレとてお前と大して変わらん」
苦虫を噛み潰したような表情で小さく呟くラーハルトに、アポロは目を丸くする。
『傲岸不遜』『傍若無人』が服を着て歩いているような彼がこんな事を言い出すとは思わなかった。
「何だ、その目は」
まじまじと眺めた事が気に障ったか、ラーハルトは不機嫌そうにアポロを見返している。
「いや…君がそんな事を言うとは…何と言うか、意外を通り越して似合わん」
「悪いか」
「悪いとは言ってないだろう。…オレと大して変わらない、と言ったな、ラーハルト」
「ああ」
眉間に皺を寄せながらも頷くラーハルトに、アポロは僅かに逡巡し言葉を捜す。
「君はオレと同じ状況に立たされたらどうする?」
「人には頼らん。少なくとも、選ぶのだけは、な」
「歯切れが悪いな」
「渡すのには人を使う事もある」
「それは相手にも頼む人にも失礼だと思うが」
「そうでもしなければ受け取らん相手もいる」
驚愕の余り、目を見開く。
眉を顰める彼には悪いが、意外に過ぎる。良く似た別人でないのかとさえ思ってしまうのは、何もアポロの所為では無い。
俗な言い方だが、兎角、彼は女性に持てる。
やや――否、かなり歪んだ性格だが、女性受けする派手な容貌の所為かその性格さえ長所として捉え、彼に想いを寄せる女性は多い。
だが、彼が今まで特定の女性と付き合ったという話は聞いた事が無い。
僻みだと言われるのを承知で言えば、『選り取りみどり』、付き合う女性には全く不自由しない立場にいるのだ――彼は。
そんな男がこんな事を言い出すなど、親しい同期に話したところで誰が信じてくれるだろう。
アポロ自身が我が耳を疑っているというのに。
「…先刻から何だ、その珍獣を見るような目は」
「あ、ああ、すまない」
過剰な驚きに――とはいえ、彼の知人なら至極真っ当な反応ではあるが――気を悪くしたらしいラーハルトに軽く謝罪する。
だが、アポロを驚愕させてばかりの本人は唐突に首だけ振り返り、ガラス越しに店内を覗き込んでいる。
釣られてその視線を追う。
ガラス越しの視線の先では、エイミ達が未だ買い物に興じている。
否、『達』ではなく、エイミと金髪の少女――レオナだけだ。一人、足りない。
「…が居ないな」
「呼びましたか?」
「うわ!?」
子供特有の高い声に驚き、慌てて振り返る。
次いで視線を落とせば、リボンの女の子――が半眼でこちらを見上げている。
「そんなに驚かないで下さい」
「何故ここに居る…いや、何時から居た?」
「ついさっきです。何か聞かれては拙い事でもありましたか?」
「偶には積もる話もある。まあ、お前には関係のない話に変わりは無いがな」
口角を引き上げるラーハルトが癪に触ったらしく、は眦を吊り上げてラーハルトを睨む。
態と喧嘩を売るようなラーハルトの物言いに一気に険悪な雰囲気になる。
ラーハルトに敵が多いのは周囲の知る所で、それが彼の性格故であるを知らぬ者は無い。
だが、わざわざ好き好んで険悪な雰囲気に持ち込む真似をするような男ではない。
あくまでアポロの知る範囲での話だが、ラーハルトは他人に対して『勝手にしろ、オレに迷惑を掛けるな、敵なら叩き潰す』と実に自己中心的なスタンスでいる。
沸点が低くなった時の彼はこの傾向が如実に現れ、その度に講義室の空席が増え続ける――余計な話だが。
その代わり――と言うのも変な話だが、敵意を示すような真似さえしなければ『偏屈な同期』としてそれなりに、まあなんとか上手くやっていける。
アポロ自身が良い例だ。
とまれ、他人に対してここまで好戦的になるラーハルトは見た事が無い。
同期の態度を意外に思いながら、だが険悪な雰囲気を払拭すべくアポロは出来るだけ穏やかに二人の間に口を挟む。
とは目線が合わないので、中腰になって、だが。
「それよりちゃん、買い物はまだ終わらないのかな?」
「まだ終わらないらしいですよ。自分達の買い物に目的が摩り替わってますから」
「…それは…時間が掛かりそうだな…」
の端的な報告に、アポロは思わず肩を落とす。
女性の買い物は長い。男の忍耐力はこんな所で養われているのかもしれない。
「ところで、」
「何ですか?」
「意見を聞きたい。お前ならどう思う」
「ちょっと待て、ラーハルト!」
子供に意見を仰ぐラーハルトに姿勢を正し、慌てて止めに入る。
女性とはいえ、子供は子供だ。
理解できるかどうかさえ怪しい上に、こんな話に巻き込む真似はしたくない。言い換えれば、情けない男の話など聞いて欲しくない一心だった。
「お前は黙っていろ、アポロ」
だが、そんな想いも空しく偏屈な同期はアポロの制止を綺麗に一蹴してくれた。
巻き込まれた子供―は、不審そうな表情で眉根を寄せて二人を見上げている。
当然といえば当然だ。
いきなり訳の分からない事を言われれば、普通はそれが子供の当然の反応で――。
「意見を求めるなら、まず議題を提示して頂きたいのですが」
――思考が止まる。真っ白だ。
停止した思考のまま、呆然とを見下ろす。
鮮やかな色のリボンが、僅かに揺れる。
それは彼女が首を傾げた所為だと気付くのにさえ時間が掛かった。
――これが小学校低学年の女の子の台詞か?大学の講義ぐらいだ、こんな物言いを聞くのは。
ぽん、と軽く肩を叩かれ、無意識に、だが必死で弁論を組み立てていた思考が現実に引き戻される。
はっとして顔を上げれば、口角を引き上げた得意げな男の顔。
――大人しく聞いているしかない、のだろう。これは。
静かになったアポロに気を良くしたらしいラーハルトが
に向かって口を開く。
子供を相手にするにしては目線を合わそうともしない随分高圧的な態度で、だが。
「誰でも良い、お前に物をやろうという奇特な奴が居たとしよう」
「…物言いは気に入りませんが、まあ良いでしょう。それで?」
「お前に渡された物が、実は他人が選んだ物だったとしたら――お前はどう思う?」
面白がる風のラーハルトの問には至って真剣な表情で答える。
「その他人が選んだ物に、わたしに物をくれたその当人の意思が介在するか否かで答えは変わります」
「当人の意思は存在しない。他人が選んだ物を、そいつはそのままお前に渡すだけだ」
「受け取りません」
至極きっぱりと言い切るに、勝ち誇った表情でラーハルトがこちらを見ている。
お前が勝ち誇ってどうする、と言いたいのは山々だったが、今はそれどころでは無い。
の言葉に一気に血の気が引いたアポロは思わず口を挟む。
「受け取らないって」
「無論、極論ですが。まあ、良い気はしませんね…選んだのは他人なんでしょう?」
ノ引き攣った表情のアポロを見上げるの目には一片の曇りも無い。
逡巡の後、顎を引いての言葉を肯定する。
――肯定するしかない、紛う事無い事実だ。
こちらに小さく頷き返し、子供だと侮っていた女の子は更に言葉を重ねる。
「物を贈られて嬉しいのは、それが贈ってくれた人が自分の為に悩んで選んでくれた物だからです。
他人が選んだ物をそのまま渡されたとしたら――その時は知らなくても喜んだとしても、後で事実を知った時に落胆すると思います」
「だそうだ、アポロ。耳が痛いな」
こちらの肩を軽く叩き、苦笑するラーハルトに同じく苦笑を返す。
「全くだ…勉強になる」
子供らしくない言葉で語られた言葉は、他力本願に走ったアポロには酷く重かった。
重かったが、真実だった。
奇麗事のような、しかし『何の為に贈るのか』という疑念に対する一つの答えだった。
無二の答えでは無い、教本通りだと言ってしまえばそれだけで片付く答えだが――それが妙に有難かった。
それを語ったのが子供らしからぬ物言いをする子供だったからなのかもしれない。
『子供』故に、『大人』が見落としがちな或いは忘れてしまった奇麗事。
その奇麗事が常に通用するわけでは無いが、初心を――例えば、彼女に初めて花束を渡した時のような気持ちを思い出させる。
彼女が『気障ね』と笑いながら、だが喜んで受け取ってくれた事、それを長持ちするように大事に活けてくれた事、花が枯れた時『ごめんね』と至極申し訳無さそうに言ってくれたくれた事。
憶えていない訳ではない、だが忘れていた事。
そして、思い出した事。
「有難う、ちゃん」
身を屈め、心底から言った言葉に「どういたしまして」と返す『子供』の衒い無い笑顔に、釣られてアポロも笑った。
「ついでに、個人的な意見なんですが」
「何だ?」
思いついた様なの言葉に、どこまでも不遜にラーハルトが先を促す。
と、口角を引き上げるにアポロは何故か全身が粟立つ。
『子供』の笑い方にしては邪悪過ぎる気がするのは――気の所為では無い、ラーハルトが傍らでびき、と音を立てて硬直している。
「自分で選んだ事を隠して、他人を介して渡すのも考えものだと思いますよ。人の口は、想像以上に軽いんですから」
自らの髪を纏めるリボンを指差すように軽く手を挙げ、踵を返して走り去るの、一瞬だけ見せたあの表情は。
――美しくも残忍な、他人の苦痛を喜ぶアスタロトのものだった。
「…報復は考えておかねばな…」
「…程々にしておいてやれよ…」
何となく事情を察してしまい、アポロは見ず知らずのの『兄』――彼の『友人』に深い同情を覚えた。
後日。
結局、アポロは自分で選んだテディベアを彼女に贈った。
彼女の妹、エイミに言わせれば『子供じゃないんだから』と非常に不評で、酷く不安を覚えたが――。
諸手を挙げて喜んでくれた彼女の姿にアポロが心底安堵したのは、また別の話。
更に、これは完全に余談になるが。
どうやら完全に意気投合したエイミとレオナは密かに結託し、『片思い同盟』なるものを結成したらしい。
これはでさえ与り知らぬ、ここだけの事実。
リクエスト受け付けますの甘いお誘いにちゃっかり乗ってアポロ登場を強要した作品ですv
ただでさえ難易度の高いアポロを難なく書ききってしまわれる柚原さまに万雷の拍手を送りたい・・・!!
凄い・・・凄すぎですよ!
最早足を向けて寝られません・・・!!
あぁ〜柚原さまのアポロ、めっさイイ男だよー、完璧だよー、名前の如く輝いて見えるヨォー!ハァハァ!
こんな素敵なお話になって返ってくるとは感動を通り越して放心状態です!
口から泡噴いてます、アワアワ!
大切に愛でさせて頂きますので〜!
あ、私的に登場もしてないのに、この後不幸決定してる長兄が哀れでツボですvv
柚原さま、 本当にありがとうございました!