おかしな君 2

 はゆっくりと腰を落とし、アバンをみるみる咥え込んでいく。
 全て呑み込むとその充足感に一つ、熱い息を漏らした。
「……っは……ん、すご……ぉい……」
「……く……ッ……!」
 熱く湿ったの内壁がアバン自身全て余す事なく包み込む。再び絶頂寸前にまで引き上げられたアバンは、ようやく得られた感覚に全身を浸していた。
 だがが腰を前後に揺すると、目の前に火花が散り、あっけなく限界となった。
「だ、ダメだ……! すみませんけど、もう……ッ!」
「あ、ぁん……いいですよぉ」
 激しく腰を使ってやると、中で一層脹れあがったのが分かった。
 そして次の瞬間、最奥に叩き込むようにアバンの欲望が弾けた。
「……っくぅ……ぅ……!!」
「ん……熱ぅい……」
 最後の一滴まで出し切ろうと、ガクガクと腰は震える。その揺れを楽しみながら、は唇を舌でなぞった。
 胸を上下させて荒い息遣いを繰り返すアバンの肌には汗がしっとりと滲んでいる。その肌を撫でるようには手の平を滑らせていく。
「気持ち良かったですかぁ……?」
「……はぁ……はぁ……ええ、すごく……ね」
 腕に埋めていた顔をそのままに、視線だけに遣る。失笑に口の端を少し上げた。いいように弄ばれ、あっけなくイカされてしまった羞恥が冷静さを取り戻しつつある頭に沸々と沸き起こってしまう。息を落ち着かせているそんなアバンに、は耳を疑うような事を言い放つ。

「じゃあ、このまま抜かず三発ですよぉ」

 両手が縛られていなかったらベッドから転がり落ちていたに違いない。
「……は!? ……ぬ、抜か……ッ!?」
「抜かないで三発するんですぅ〜。分からない?」
 きゅ、と小首を傾げる。
「い、いや、分かる分からないとかじゃなくて……! いや……もう…………えぇ!?」
「落ち着いてくださぁい」
「え、ええと、うん、そうですね、う、うん……。ム、無理ですって!」
「ほぉらぁ。敬語は禁止って言ったデショ?」
 密接した腰はそのままに上半身を前に屈め、可愛らしい桃色の唇をわざとらしく突き出す。
「む、無理だよ。見ての通り、私は年寄りなんだから」
 はニヤリと微笑む。
「もうこんなにされてて、何をおっしゃるの?」
 の中に居座るアバン自身は大して衰えもせず、を穿つ強度を依然として誇っていた。少し腰を前後してやれば、みるみる勃ち上がっていく。今日何度目かになるあの妖しい微笑みのまま二人の結合部を見せつけられ、下腹部に血が集まっていく感覚を痛いほど覚える。
「あン……。ホラ、ね……?」
「……やれやれ。敵わないな……」
 さも嬉しそうに見下ろし微笑むを見て、半ば諦めたようにアバンは片方の口角だけを上げる。
「では、動きますねぇ」
「ちょ……! 紐は!?」
「紐はまだですって〜」
「ま、まだ!?」
「んもう〜、ウルサイなぁ〜。大人しく犯されてなさいっての〜!」
 は柳眉の間に細かな皺を刻むと、腰を激しく揺すり始めた。
「あ……! ……!」
「ア……! ん! ぅく……、すごく、イイ……」
 中に残る先程の残滓が淫猥な音を立てて自己を主張する。
 アバンはその音を聞きながら、目の前で腰を動かす度に震える乳房に魅入っていた。艶かしく淫らにくねらせる腰つきは、あっという間にアバンを追い詰める。
 短く浅い呼吸を繰り返す口から見えるあの赤い舌。上気した頬に汗で張り付いた黒髪と相まって、アバンの身体の中心を駆け巡る甘い電流を起こしていた。

 そうか、これは犯されているのか……。

 目の前で踊る身体に魅入りながら、アバンはボンヤリと思った。
 今の状態は精神の深層にある欲望や思いが、混乱状態によって全てかき混ぜるようにして表層に出てきたんだろう。あの過去の過ちをいくら許してくれたとは言っても、怒りや悲しみ、報復、そんな思いが無かったとも言い切れない。それがこうして具現化したのだ。どんな状態であれ、これはの思いであり願いなんだ。
 今はこうしてこの時間を楽しんでしまっているが、きっと抗えない力に組み伏せられるのは今の自分以上にもどかしく、悔しかったはずだ。
 それを与えてしまった。
 何度後悔して懺悔して頭を垂れても、きっとこの先、には頭が上がらない。贖罪は自分の愛し方であり表現の一部であり戒めであり、重いなどと思った事は一度も無い。
 自惚れながら分かっているのだ。が心から許してくれている事を。でもこうして深層意識の中ではしっかりと息づいている事を自分は決して忘れてはいけない。今一度意識する機会をくれたのだ、と好意的に捉えたのだった。
「ゴメンね、
「あぁ……っふ、……どうしたんですか……? 急に」
「なんとなく、ね」
「ヘンな先生」
 薄く笑ったは上半身をアバンに重ねるようにして下ろし、浅く上下する胸に頭を預けて滑らかな肌を楽しむ。

「私、先生とこうしてるの、大好き」

 の中でブルリと震えた気がする。

 鼻の奥がツンとするような甘酸っぱい喜びに満たされた。思わず抱きしめたくなったが、ギシリとベッドが鳴るだけで叶わない。自由の利かない腕に苛立ちを覚え、否が応でも解いて貰おう、アバンは静かに決心した。
 おもむろにアバンは両膝を立て、器用に腰だけを使いを突き上げはじめた。
「あぁ! あっ! あん! んん……ッ!」
「……どう?」
「ッあ! っは! イイ……気持ち、イイ……ッ!」
 は預けていた上半身を起こすと、自らも腰を動かしはじめた。
 ベッドのスプリングを軋ませ、いつも打ち付けられる勢いで腰を落とし込んでいく。咽喉を仰け反らせ、髪を振り乱し、全身を使ってアバンを攻め上げる。は両手を自分の乳房に伸ばし、掬い上げるように包むと桃色の頂きを両の人差し指と親指で刺激を与えた。強く摘んだり、爪先で引っ掻くように弾くその姿は、自ら快感を貪ろうとする貪欲な「女」の姿だった。そんなを初めて見たアバンは、先程のに倣い、無意識に唇を舐めずった。
「せ、せんせぇ……! せんせぇ……ッ!」
……凄く締め付けてる……!」
 突き上げる度に離れるのを惜しむかのように喰い付いてくるソコは、絶妙なリズムでアバンを締め上げ、真っ白な高みへと引き上げていくほどの快感を与えていた。
 呼吸もままならず、の唇の端からは唾液が零し、虚ろな瞳でアバンを見下ろす。
「せんせぇ……! 私……イッ……ちゃう……!!」
!!」
 熱く小さな叫びを重ねて、二人は同時に達した。



 火照った身体を上下させ、荒い息を落ち着かせる。
「はぁ……ぁ……っは……」
 慣れない体勢での行為で、はいつも以上に息を荒げていた。
……そろそろ解いてくれる?」
 達したばかりの真っ白な頭では、言われたままに身体を動かす事しか出来なくなっていた。
「はぁい」
 は最早本能なのか、腰を離さない事だけは律儀に徹し、腕だけを懸命に伸ばして壁に突き刺したナイフを手に取る。そして素直にアバンの手首を拘束する元はTシャツだったものを切り裂いた。
 ようやく解放された腕を胸の前まで下ろす。手を開け閉めすると指先に血がめぐるのを感じ、鈍かった動きもすぐに元通りになった。

 すると次の瞬間、手先を見ていた視線はに移り、目も眩む速さで上半身を起こしてを抱きしめた。

「びっくりしたぁ……」
 アバンはぎゅうぎゅうと縋るように抱き締めてくる。あっという間に抱き留められて目を白黒させつつも、はその熱く力強い抱擁に身体の芯を熱くさせた。もっと早く解いておけば良かったかな?と思いながら、アバンの背に腕をまわそうとした時だった。
 視界がぐるりと回り、その目には天井とアバンが飛び込んできた。
 背にシーツの感触を感じながらも、はまだ様子が掴めない。
 覗き込む微笑のアバンの表情を見て、腰を密接させたまま身体を反転させベッドに押し倒された事にようやく気付いた。

「三回目はそうそう簡単にはイケないよ? ちゃんと付き合ってもらうからね?」

 その言葉と凶悪な微笑みの意味を、この後、身をもって理解する。






 一歩一歩が床を踏み抜くような勢いの足音と、その後をとりあえず遅れないように付いて行く足音が、朝のパプニカ城内に響き渡った。
「メルルーーッ!!」
 破らんばかりに開けたドアの先には黒髪の占い師の少女。飛び込んできた急な訪問者に、部屋の観葉植物に水をあげようと傾けたじょうろをピタリと停める。
「あら。おはよう、さん」
「おはよう、メルル! ……・・じゃなくって! 昨日のアレは何だったのーッ!?」
 いまいち状況が掴めないメルルはきょとんとした顔で応える。
「昨日のアレ……? ああ、お渡しした”夢見の実”の事?」
「そうよ! ”夢見の実”だって聞いてもらったのに、飲んだら何か……その……えと……お、おかしな事になっちゃってたのよ!?」
「おかしな事? おかしな事ってどんな事に?」
 メルルの当然出てくる疑問に、は言葉を詰まらせる。
 それはそうだ。
 アバンを襲って、しかもその後、公言通り三発目を迎えるまでに三回イカされたなどと、どの口が言えようか。
「そ、それは……!」
 頬を真っ赤に染め上げて口ごもる様子から、普通の人なら何か感じ取ってしまったであろうが、純朴なメルルには訳が分からない。相手がメルルで良かったと、隣にいたアバンは冷や汗ながら感謝すらした。
「まるでメダパニにかかったような状態でしてね。メルルさんから頂いたものを飲んでから一変したようなんです。何か心当たりはありませんか?」
 アバンの助け舟には泣きそうになりながら飛び乗った。
「メダパニ? …………ああ! 一つ思い当たるものが!」
 メルルは胸の前でポンと手を一つ叩き、部屋の机の引き出しから小さな袋をいくつか取り出した。
「ええと、夢見の実はこの袋だったかしら?」
「私にくれたのは赤い色の袋だったよ! それ緑色じゃない!」
「あら、やっぱりそうでした?」
「え?」
「この赤い袋に入っているのは、最近私が調合した薬なんです。服用すれば混乱状態に陥ってしまうんですよ。名前はまだないんですが、……そうですね、さんに倣って”おかしな薬”にしましょう!」
 黒髪をサラリと言わせながら首を傾げ、また胸の前で一つ手を叩いた。
「名前なんてどうでもいいの! 何で私はその薬を飲む事になっちゃったの!?」
 喚くを余所にメルルは至って冷静だ。
「私達、昨晩ブランデー入りのホットミルク飲みながらお喋りしていたじゃないですか?私ってお酒に弱いもので、気付かないうちにそのほんの少しのお酒で酔っ払っちゃってたみたいです。ゴメンなさい」
 テヘ☆と小さく舌を出しながら自分の頭を小突くメルルに、行き場のない憤りやら何やらが溢れ出す。何も言葉を紡げられない口はただ、形を変えながら開け閉めするのみだ。
 そんなの横を通り過ぎてアバンはメルルに詰め寄る。は代わりに何か言ってくれるものだと期待してその背中を目で追った。
「あの、メルルさん……」
「はい?」
 いいぞいいぞ、その調子。

「その薬を幾らか分けていただくか、調合レシピを教えていただけませんか?」

「こらーーッ!!」
 瞬間にアバンの目論見を察知したは、より顔を赤くして止めに入る。
 だが二人は聞きも見もしない。
「あら、アバン様はお気に召しまして?」
「ええ。とても前衛的な薬です」
「それはよかったわ」
 うふふあはは、と和やかな笑い声を背中に受けながら、は頭を抱えながらよろける足をなんとか動かし、図書館へと向けた。

 一刻も早く混乱状態を治す薬を作って常備しなければ……。

 の沸騰寸前の頭に浮かんだのは、ただそれだけだった。
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(2007.2.26)