純潔最終日 3

 
 夜の帳が下り、宵の空には数多の星々が煌きはじめた。
 はベッドに腰掛けながら、無気力にその満天の星を見つめていた。星の一つ一つをただ数えるように見つめる事を繰り返す。これからの出来事に意識を向かせないように、何かに専念していないと居られなかったからだ。
 レオナが用意してくれたシルクのローブが上質すぎて、何も着ていないように感じるほど軽く、の居心地をより悪くさせていた。
(これじゃあいかにも待ってましたって感じかな……)
 己の身体をなめらかに覆うローブを見下ろして、やはり着替えようかと思った時だった。

 遠慮気味に、でも確かな音で扉を叩くノックが響いた。

 途端にの心臓は跳ね上がった。
 せっかく収めた手の震えが、自分の意思とは裏腹に再び騒ぎはじめる。だが治まるのを待っているわけにもいかない。は痛みも覚えないまま手を握り込み、懸命に身体を動かしてベッドから降りた。
 扉の前まで来ると、握り潰して既に硬くなった拳を何とか広げて、真鍮のノブに手をかける。心地良いほど冷たい。
 微かな蝶番の音をさせて扉を開けると、そこには思い描いていた通り、ポップがいた。
 一瞬目が合ったが廊下の灯りを背にしていて、しかもは視線をさっさと外してしまったので、その表情は窺い知る事は出来なかった。は視線を外したまま無言で踵を返す。
 入室を促されたと受け取ったポップは部屋へ歩を進め、後ろ手に扉を閉めた。
 その音に更なる高鳴りがを攻め立てる。
 はもつれそうになる足を全力で駆使して部屋の中央まで歩いたが、視線の先に嫌でも目に入るベッドに、沸騰した頭がその機能を止めた。あと数歩で辿り着くというところで、見知らぬ不安と緊張に、ついに足が動かなくなってしまう。

 平然と、何でもないような顔をしてやり過ごそうと思っていたのに。

 止まってしまった足が動かない。縫い付けてしまったかのようにびくともしない足を、叩いて進ませたかった。こんな所で立ち止まってはポップに不審がられるのに。は焦りから目頭を熱くさせてしまう。

 ふと。両肩に重みを感じた。
 次の瞬間には身体を反転され、ポップと向き合うことになった。

 真摯で、熱っぽくて、逸らす事を許さないほど力強くて。
 はこんなポップの瞳を初めて見た。

 たったそれだけで、今まで自分が逃げていた事が馬鹿らしく思えた。目の前のポップは見惚れるほど格好良く、そして愛しかった。徐々に近付く顔に、最早何も不安がる事はない。
 は静かに、瞳を閉じた。



 初めて触れる人の唇は、とても柔らかかった。
 軽く触れるだけの口付けを離すと、ポップとはお互い見つめあう。そして再びその柔らかさを確かめるように、唇を寄せた。
 軽く押し付けては離す。それを繰り返す稚拙なキスだったが、二人の間の熱を高めるには十分すぎるものだった。そしてポップは次第にその深さを増していく。重ね合わせた唇からおずおずとしながらも舌を差し出し、の熱く柔らかな舌を求めて侵入させる。いつの間にか身体は隙間もなく密着されており、お互いの背に縋るように手を這わせた。
 は呼吸を忘れて口付けに応じながらも、腕の中にある胸の厚みと背中の広さに軽く感動していた。それは完全な「男」のもので、無条件に全てを委ねてしまえる確かなものがそこにあった。
 ポップはその口付けの勢いのまま、と一緒にベッドへ向かって崩れた。

 倒れ込んだ拍子にローブの合わせが緩み、その隙間から立ち上る甘いバラの香りがポップの鼻先を掠める。ポップはその香りに誘われるようにの首筋に唇を寄せた。
「……ッ」
 微かに身じろぐと、そこから新たに香りが立ち上る。ポップはキスの時と同じように、何度も啄ばむように首筋を辿った。
 見れば横たわるの身体の線に沿ってローブが覆われており、隠しているようで隠していないその艶かしさに、つい目を見張る。二つの円やかなふくらみの形を綺麗にありのまま示し、まだ見ぬ景色への期待を加速度的に高めていき、無意識に喉を鳴らしてしまった。
 触りたい、そう思うよりも先に手が伸びていた。そっと置くように包んだふくらみは、ポップがこれまで触ったどんなものよりも柔らかかった。壊れそうに繊細で、でも確かな存在感が感じられる、不思議な感触だった。そしてさらに手の平に当たる尖りがポップの劣情を刺激する。やわやわと揉み始めると、その尖りはさらに屹立しポップの手の平を押し上げた。

「……ッ……ぁん」

 もうここからは全て無意識だった。
 荒い息と共に身体が止まらない。
 なるたけ優しく、紳士に、そして出来れば上手に進めたいとポップは思っていたが、頭の中で何度もシミュレートした手順は忘却の彼方に吹き飛び、ただ身体が動くままにへと沈み込んだ。
 ローブを肌蹴て白いふくらみを外気に晒させると、喰らいつくように唇を寄せた。舌に乗せる蕾はどこか甘い気がして、ポップは堪能するように味わう。濡れた舌先で拙い刺激を与えると、目の前の眩しいほど白い肌が波打った。
「あ……ン……!」
 喘ぎ声まで甘いのか。
 ポップは背筋を痺れさせた。
 尖りを舌で弾くたびにの身体は跳ね、ポップの耳に蕩けるような嬌声が届く。自分の与える愛撫に反応があると気を良くし、さらに欲の熱を高めていく。
 引き剥がすようにシルクのローブを全て肌蹴させると、下着に手をかけ一糸纏わぬ姿を晒させる。初めて見た女の裸体に一瞬息を呑んだ。そして止まらない劣情に身を任せるように、荒々しく口付けを落とす。
 秘所に手を伸ばせば既にしっとりと蜜を含んでいて、その蜜に沿って指を滑らせると、一層の身体は揺れ動いた。
「あぁッ! ……あ! ……ぅ、ン……!」
 は手探りにシーツを引き寄せ、羞恥と初めて沸き起こって来た快感に耐えるように、強く強く握り締めた。身体のどこかが緩むような、締め付けるような、不思議な感覚にとらわれる。耳の側で割れんばかりに鳴る鼓動で身体中が沸騰しそうに熱い。なのに心のどこかがヒンヤリと冷えている。

 ポップは蜜に導かれるように指を侵入させる。
「あ……ッ! っく……!」
 初めて感じる異物感には思わずポップの肩に爪立てる。
(すげぇ熱い……!)
 ポップの方も初めて感じる女の身体に火傷しそうな熱で迎えられ、さらに奥へと誘い込むその蠢きに意識を飛ばしそうなほどのいやらしさを感じた。耳に届く、くちゃくちゃという水音がを羞恥に攻め立て、ポップに僅かな男の自信を付けさせた。
 二本の指を差し込んだまま親指をふと動かした時だった。
「きゃあんッ!!」
 吃驚するぐらいの悲鳴と共にの身体が跳ねた。
 そろりと今の場所を弄ってみると、硬く尖った花芽が指に当たった。
「や……っ! あッ! だ、ダメぇ……!!」
 ポップの肩を掴む指にかつてなく力が込められる。は弱々しくかぶりを振るが、薄く開いた口から鮮やかな紅い舌が物欲しげに動くのを見ると、指の動きを止められはしなかった。素早く上下に擦り上げ、を追い詰める。
「あッ! ああ! ダ、メ……本当に……!」
 聞く耳も持たず、さらに執拗に震わせた。はポップの首に手を回し、来る波に耐えるようにしがみ付く。そして次の瞬間、ふわりと鼻先を掠めるバラの香りが自身の香りと相まって、濃密な花の香りに変化した。
「あっ! っは! あぁッ! ……ひ、あああぁ!!」
 耳元で甘い悲鳴が高らかに響いた。


 は胸を素早く上下させながら、呆然と脱力してベッドに横たわる。脳裏が真っ白に焼き付き、何も考えられなかった。気が付けば膝を左右に押し広げられ、ポップは熱い身体を割り込ませている。
「わりぃ……もうガマン出来ねぇ」
 低く掠れた声が耳から頭に伝わった時にはもう、ヒクつく秘部に自身を宛がっていた。
「っああッ!! ……っく、ぅ……!」
 楔は一気に中へ穿たれた。指とは段違いの質量がの未熟なそこを苦しめ、破瓜の痛みを脳天に響くほど与える。乾いた音をさせて息を呑んだまま、その後、息が続かない。はポップの背に回した手で、遠慮なく爪を立てた。何ともつかない涙がまなじりから溢れ、頬を伝い漏れていく。

「……っは……!」
 何だ、この腰から崩れそうな快感は。
 ポップは初めて知る女の身体に、情けなくも意識を失いかけた。気を抜けば達してしまいそうな、突き抜けるような快感に耐えながらも、重ね合わせていた上半身をやや上げての頬に手をすべらせた。涙に濡れたまつげが細かく震え、今にも壊れそうな危うさと痛々しさに、ポップは胸を痛める。
「…………痛い……か?」
「平、気……! だから続け、て……!」
 平気な訳がない。
 眉根をひそめて強く目を瞑り、戦闘の時でも見せた事がない辛そうな顔を前にして、そう思えるほど鈍くはない。

 だがはそんな気遣いなどして欲しくなかった。
 優しい言葉など聞きたくなかった。
 この行為が身体だけの手段だと割り切りたかった。
 この身を男に、幸いな事に好きな男に捧げるだけで前に進めるのであれば、いくらでも差し出そうと思った。
 だが手段に想いを乗せたくなかった。
 秘めたる想いはこの状況で曝け出せるほど軽々しいものではなかったから!

 名を呼んで、愛を叫びたくても、愛しさを言葉にして長年の想いを伝えたくても、は決して言わなかった。手段ではなく、本当に結ばれる為のセックスが、今夜であって欲しくなかったからだ。
 喉まで出かかっている言葉の数々は奔流となっての身体をせめぎ立てる。は狂おしいほどの葛藤と切なさに、溢れ出る涙を堰き止められない。

 言わなくても、ポップも同じ気持ちだった。想いを汚されまいと歯を噛み締め、無理矢理に押し留める。
 こうして身を貫いたのだ、お互いの純潔は破られただろう。もう止めてもいいのかもしれない。ポップは思った。今すぐハラハラと涙を流すからこの熱の塊を引き抜いて抱き締めてやろうかとも思った。
 だが。
 少年の身体は思いを凌駕するほど正直で、素直だった。きゅうきゅうと締め上げる中の気持ち良さに、腰を引くだけなど出来はしない。半ば引き抜かれると痛みがぶり返したのか、の柳眉の間に皺がさらに寄った。可哀相だとは思ったが、そのほんの摩擦がポップの思考能力をことごとく奪い、そのまま腰を揺すりはじめた。

「……んッ……! っく、は……ぁ……!」
 四肢を裂かれるような痛みの中、はポップの肩に顔を押し付ける。だが腰を打ち付けられる度に痛みが何かにすり替わろうとしているのを感じ、さらに背に回す手に力を込めた。もう幾筋もの赤い線がポップの背中に描かれているはずだが、お互い気付いてなどいない。
 荒い息遣いとベッドの軋む音が断続的に聞こえる頃、ジワジワと沸き起こる熱がを未知の快感へ引きずり込みはじめた。
「ああ! あッ! ……っは、あぁん!」
 の細い腰に手を当て何度も何度も突き上げると、甘い嬌声が紡がれ乳房が誘うように震える。バラ色の唇がしっとりと濡れ、艶やかに光っていた。
 ポップは眼前のに、目の奥を熱くさせた。
 男が閨で泣くなど無様な醜態は晒せない。だが泣きそうだった。組み敷いた目の前のがあまりにも美しくて、あまりにもいじらしくて、あまりにも愛しくて。
 溢れそうな涙から意識を逸らすように、さらに突き入れる速度を増した。
「ひあ! あぁ! や、あ! ああッ!」
「……っく、は……!」
 は愛を紡ぐ代わりに、きつくポップを抱き締めながら声の限り、啼いた。
 今、自分が表現出来るたった一つの方法であると思ったから、は叫ぶように、啼いた。
 あの濃厚なバラの香りが立ち篭め、果てるその時まで……。



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 夜が明けて間もない頃、ひんやりと澄んだ朝がパプニカ城に訪れた。

 神殿入り口に集まりはじめた人影を、気の早い小鳥たちが見下ろす。
 一番遅れて現れたラーハルトは、その集団にある二人の男女を見かけて小さく鼻を鳴らした。

 結ばれたにしては味気なく、惚気るとも気まずいともない距離でいるところを見ると、本当に済ませたのかと思わせる。だが昨日とは違う、男の顔付きの精悍さ、女の艶やかさが言わずとも物語っていたのは、集まった誰もが思った事だった。あとは皆、低俗な視線を寄こす事なく、揃って集まれて良かったと思うだけで、その考え自体を終了させた。それがこんな状況で結ばれざるを得なかった二人へのせめてもの気持ちだった。

 だがそんな周囲の気持ちなどよそに、の中は虚ろだった。
 これでいいはずなのに、モヤモヤと燻り続ける。
 心の隙間を、身体だけの夜でも埋められるんじゃないかと思っていた。だが実際は隙間が大きくなるばかりで、より空虚感は増し、苦しくなっただけだった。失うばかりで何も得るもののない、なんと惨めな夜だったのか。

「これでみんな揃ったわね。……いってらっしゃい、皆の帰りを待っているわ」
 レオナの力強い微笑みと共に、一行は送り出される。

 それも仕方がない。
 全て、逃げ続けてきた自分がいけないのだ。
 自嘲が燻りを一蹴する。

 パプニカ城を背に一行が歩き始める。
 が気持ちを切り替えてその後に続こうと、足を一歩踏み出した時だった。先を歩いていたポップが振り返った。

「行こう」

 そしてに向かって手を伸ばす。

「お前はおれが守るから」

 そう言って微笑んだポップと目を合わせるのは、ひどく久しぶりのような気がした。
 込み上げる喜びと愛しさがの目の前を霞ませる。
 あなたの隣で守られていいのか。
 側に居て、いいのか。

「いいの?」

「おれは絶対離さねぇからな。もう逃げんなよ」

 口先を少し尖らせた、いつものおどけた笑みを少しはにかませる。
 うん。
 はそう言って手を差し出す。

 そして二人は指を絡ませ、強く強く、握り締め合った。
 いつか、全てが繋がるように……。
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(2007.5.30)
無駄にシリアス。無駄に長くてゴメンなさい。
エロだけ読みたい方は3からで全然イイです。ええ、本当に。ブルブル……!
ちなみに、このあとの魔界編など考えておりません(´Д`;

ちょっと補足。
・夢主はアバン夢の夢主ちゃん。
・パーフェクトブックによると、回復呪文で病気も治るらしい。
・あと、ラーハルトの血は青いと思うのね。だからこそ皮膚が青く見えるんだろうと。
・一説ではローズの香りには催淫効果もあるらしい。レオナがそれも知ってて使っていたら……相当のヤリ手ですな!

ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!