モノクロ 2
頭の鈍痛を引きずりながら廊下を歩く。
はぐしゃぐしゃになった顔を洗い流しに行ったものの、いくら洗っても取れはしない目の腫れぼったさに不快感さえ感じていた。吐く息はどれも深いため息ばかりで、急がなくてはいけないはずなのに足取りも重くなる。
だがうずくまってる訳にもいかず、は城の者に教えてもらったポップの部屋に向かう。
その部屋まであと二部屋というところで、弾けるようにポップの部屋の扉が開いた。
「何っだよ、チクショー!!」
罵声とともに転がるようにして飛び出てきたポップは、服もちゃんと着込めてない状態で、右と左どちらに向かおうかと激しく首を振っている。だがすぐにの姿を確認できたポップは、ブーツをパカパカ言わせながら駆け寄ってくる。
「お! ! お前も置いてかれたのか?」
歩きづらい足元を気にしながら寄って来て、素早く服を整えながら話しはじめる。は自分の顔を隠すように視線を逸らす。
「起きたらこんな時間でよ!」
「うん」
「起こしていってくんねーんだから冷てーよな!」
「ね」
「そりゃ疲れてるだろうからって気遣ってくれたのかもしれねぇけどさ、起こしてくれた方が有り難いっての」
「そうだね」
「…………あ、アバン先生」
「え!?」
「ンだよ、その目」
しまった。
そう思ったところで今から逸らしても、やましさを際立たせる以外役に立たない。
アバンがいるはずもなく、この人気のない廊下でいるのは眉をしかめてを睨め付けるポップしかいない。
ポップはもう一度言う。
「その目は何だよ」
やはり赤さは引かなかったか。もう少し時間を置けばよかったと後悔しても遅かった。居心地の悪さについ伏せ目がちになってしまう。
いっこうに口を開こうとしないにポップから口火を切る。
「……オレには言えない事?」
無言は肯定となる。
「ふーん……。ま、言いたくないならいいんだけどな」
そう言いつつもまだ様子を窺っているであろうポップに顔を上げる勇気はにはない。
今見てしまえば頼りたくなる。相談してしまいそうになる。この”間”はポップの優しさだ。今ならまだ聞いてやれる、そう言ってくれている、”間”だ。
だからポップには言えない。
もう、言えない。
有り難くも想いを寄せてくれていた事を伝えられてから一日しか経っていないのに、どんな顔してアバンとの痴話喧嘩を相談出来るというのだろう。そうだと分かっていながら尚、聞こうとしてくれるこのポップの優しさに甘えるにはいかない。無言でやり過ごす事がのポップへのせめてもの気持ちだった。
は目を閉じ、一つ深い息を吐いた。
これでため息を吐くのは最後だ。
スイッチを切り替えろ。
「いく?」
――気持ち切り替えて、行けるか?
「いく」
――大丈夫。今すべき事はわかってる。行こう。
開かれた瞳を見てポップは納得したのか、親指で廊下の先を指す。
そして弾かれる様に二人は駆け出した。