モノクロ 3
アバン・デ・ジニュアールV世は頭を抱えていた。
かと言って本当に抱えてしまうわけにもいかない。
歴戦の大勇者が、というよりも大の大人が頭を抱えてもんどりうつ姿は、見苦しいだけだし、いらぬ詮索を呼ぶ。つい眉間に皺が寄りそうになるのを留めて、おくびにも出さず、平然とした顔をして捜索にあたる。
だが心の中は吹き荒ぶ。
ぐずぐずと崩れる砂山のように、いつまで経っても形にならない。
実際、があれほど泣くとは思ってもみなかったのだ。
正直な話、何故あんなに泣くのかも不可解だった。
不安に思う事があれば一つ一つ順を追って説明できていたと思う。聡明な彼女があそこまで取り乱して泣くほど、理解出来なかったとも思えない。
破邪の洞窟では何度も生命を落としかけた。だがその度に思い浮かんだのは、小さな愛しき人。もう一度逢わなくては。その思いで攻略できたと言っても過言ではない。それなのにその死地から脱して、こうして久しぶりに二人の時間を持てたかと思えば、子供のように訳も分からず泣かれてしまった。即物的な己が嫌になるが、雰囲気次第でそのまま肌を重ね合わせたいと思わなかったかと言えば、嘘になる。むしろ半ば期待していた。それを肩透かしを喰らったような気分だった。進まない話に焦れったさも感じていたのかもしれない。さらには別れさえ匂わせるような謝罪の言葉に、苛立ちを隠す事が出来なかった。
だからと言って自分らしくもなく声を荒げてしまった事にアバンは激しく後悔していた。
あれでは唯の八つ当たりだ。
初めての喧嘩がこんな時なんて。己の愚行を声の限り叫んで吹き飛ばしたい衝動に駆られる。本当ならば今すぐ駆け寄って土下座して、百万遍謝りたい気分だった。
そして訊ねたい。
どうすれば機嫌を直してくれるのか。
どうすれば側にいてくれるのか。
どうすればあの満開の花のような笑顔を見せてくれるのか。
アバン・デ・ジニュアールV世は頭を抱えていた。
そんな時、移動呪文で海上班に地図を届けられる者を探す、神にも等しいレオナの声が聞こえる。
すぐさま、レオナの目をまん丸とさせるほどの勢いで、その役に志願した。